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「だったら、料理の本なんて読んでないで、殿方とのあれやこれやを勉強した方が良いんじゃないのかい?」 「もう! アリーシャさん、そのような話はストラス様の前ではしないでください!」  苺がストラスの邪魔にならない程度に怒ると、店主は声を出して笑った。店主はニヤリと不敵な笑みを浮かべ、ストラスの腕を叩いた。 「なぁ、あんたはこの子の事をどう思ってんだい?」 「アリーシャさん! そういう事を聞くのはやめてくださいよ!」 「……すまん、本にのめり込んでいた。なんだ? 苺の事か? そうだな、苺は素直で良い子だ」  ストラスは本を閉じ、苺の方を振り向いた。そして、店主の質問に素直に答えた。  店主は一瞬キョトンとした顔をしたが、再び声を出して笑った。 「なんだ? 私は素直に答えただけだぞ」 「はいはい、あまりにも面白くてね。へぇ、……そうことか。よっこいしょっと。そんなウブなお二人さんには、これがオススメだよ」  店主は狡猾そうな笑みを浮かべ、カウンター後ろにある本棚から一冊の本を取り出し、ストラスに渡した。  ストラスは興味本位でその本を開いた。目に飛び込んできたものは卑猥な単語の羅列や、あれやこれやの詳しい絵だった。苺が隣で覗き込んでいたが、顔が真っ赤だった。 「なんだい、苺はこういうのが本職じゃないか。何、顔を真っ赤にして、驚いてんだい?」 「そ、そうですけど! こんなあまりにも露骨な表現がされたものを見たら、誰だって恥ずかしいものです! ストラス様には必要ないものですから、早く返しましょ!」  苺がストラスの服を引っ張り、本を店主へ返すように促した。ストラスは本を閉じ、顎に手を当て、少し考え込んだ。 「――これは実に面白い。とても詳しく書かれている。作者はなかなかのやり手だったのだろう」 「ストラス様。……もしかして、買われるんですか?」 「そうだな。私はこういう本を探していたんだ。店主、これはいくらだ?」 「金貨一枚でいいよ。サービスだよ。その代わり、どうだったか教えてくれるかい? イヒヒッ」 「あぁ、分かった」 「ストラス様、口車に乗せられていますよ! 駄目です! ストラス様がそのような本を読まれるのは品が損なわれます」  苺が必死に止めようとしたが、ストラスは店主に代金を払い、本を手に入れた。店主は相変わらず厭らしい笑みを浮かべていた。 「良いではないか。この程度で品が損なわれるのなら、人類はすでに滅んでいるぞ? 苺もこのような事は習っているのだろう?」 「そ、そうですが……っ!」  ストラスから正論を言われ、苺はバツが悪い顔をし、目を泳がしていた。ストラスは苺に歩み寄り、苺の顎を持ち上げ、口を近づけようとした。苺は咄嗟に目をギュッと瞑った。 「だっ! 駄目です! ひ、人前です!」  ストラスは苺に顔を近づけたものの、口づけをしなかった。そしたら、苺が薄っすら目を開ける。  苺がぽかんとした顔で自分を見ていたので、ストラスは思わず鼻で笑った。そして、店主もニヤついた顔で苺を見ていた。苺は耳まで真っ赤にして、俯いた。 「苺、ドキドキしたか? これは『思わせぶり』というテクニックらしい。効果あったか?」 「……うぅっ。苺はストラス様の事が嫌いになりそうです」 「……? 店主。この本は本当に効果があるのか?」 「さぁ、それはどうだろね。イヒヒッ」 「まぁ、ものは試しだからな。では、店主。また来るぞ。ほら、苺行くぞ」 「あいよ、毎度あり」  ストラスは苺の腕を取り、本屋を後にした。苺は俯いたままだったが、途中で立ち止まった。ストラスは引っ掛かりを感じ、苺の方を振り返った。 「苺、どうした? 歩くのが早かったか?」 「そ、それもありますけど……。なんでもありません」 「そうか。そうだ、そろそろ食事の時間にしないか? 苺も腹が空いているだろう?」 「そうですね……。ストラス様がそう仰るなら、お食事にしましょう。あそこの角を曲がったお店に行きませんか? 大衆食堂でも良いんですが、落ち着いた場所の方が良いと思いまして……」 「では、その店へ行こう」  苺が行き先を指で示し、行こうとしたが、ストラスは立ち止まったままだった。 「ストラス様? どうかされましたか?」  苺がキョトンとした顔でストラスを見つめると、ストラスはすかさず手を差し出した。 「迷子になる。手を繋いでくれ」

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