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第4話 ただいま
◇◆◇
「ただいまー」
「おかえりー」
「じゃあ、翔平もおかえりー」
「うん、ただいま、鉄平」
俺たちは玄関のドアを閉めて鍵をかけ、廊下を二人で歩きながら「何やってんだかね」と言って笑った。二人で暮らす家に帰り、ただいまとお帰りを言い合うようになって、一週間が経つ。
まだそれに慣れてないからか、その言葉を言い合うこと自体がくすぐったくて楽しい。だから一緒に出掛けていても、こうやってふざけ合うようにその挨拶を交わす。それに付き合ってくれる翔平が愛おしい。
「あー楽しかったね。でも結構遅くなっちゃったな。鉄平、明日は予定無いよね?」
翔平は、帰宅すると廊下に置いてあるバスケットの中に荷物を仮入れして、すぐに風呂へと行く習慣がある。クラヴィーアがなかった頃、外の刺激を家の中に持ち込まないようにするために始めた。
今はその必要も無くなったのだが、しばらくそういう生活をしていたので、入らないと落ち着かないのだと言って聞かない。だから俺は帰宅早々、翔平を待つ時間が毎日必ず発生する。
本当は、帰って来てすぐソファに座って、翔平を抱きしめたままぼーっとしたい。そしてその抱き心地や匂いを堪能したい。でも、それは完全に俺のわがままでしかないから、一度も言わないでいた。
ただ、今日は翔平を待つのは嫌だった。果貫さんが送ってくれたベッドの設置が終わったあと、もうずっとそこで一緒に眠ることしか考えていない。
とにかく朝から頭の中がそのことでいっぱいだった。変態じみてるのはわかっているけれど、少しでも早く翔平をあの布団の中に連れ込みたかった。
俺は翔平の後ろをついて脱衣所へと入った。普段は一緒に入ることはそうないので、翔平は無言でついてきた俺に驚いていた。
「ん? 鉄平もお風呂入るの? ええ、なんか照れるんだけど……」
そう言って恥ずかしそうに背を向けた翔平は、首までほんのりと赤く染まっていた。これは多分ビールのせいだろう。でも恥ずかしがり屋の翔平に赤いところがあれば、俺は無条件でそこに吸い付きたくなる。
首筋に唇を当て、ぐっと押し付けた。ほんの少しだけそこを開くと、舌を押し当てながら軽く吸い込む。濡れた感触と音に驚いた体が、ビクリと跳ねた。
「んっ……あ、なに? あ、ちょと! 服、脱げない……」
長袖のTシャツを脱ごうと裾に手をかけていた翔平は、その隙間に入り込んだ俺の手が触れるたびに小さく体を震わせた。指先を滑らせて脇腹をたどり、上へと迫る指と下へと下る指に分かれた。
「ん……」
迫っていく指は、オーバーサイズで体が泳いでいる空間を進み、胸の尖に触れる。
「あっ、ちょ、ちょっと!」
下った指は、腰骨を撫で回して足の付け根まで迫ると、ボクサーパンツの上からつつっと敏感な部分へと迫って行く。待ってよと言いながら翔平指が滑るたびに腰を俺の方へと押し付けていた。
「翔平、自分から気持ちよくなろうとしてるけど?」
「あっ、あ、んっ、だって……鉄平が、触る、か、ら……だろっ」
登った手で薄く色づいたところを摘むと、「はうんっ」と小さく叫ぶ。下は中心部分を爪でそっと引っ掻くと、「んっ」と口を結んで小さな波を逃していた。
肌が真っ白な翔平は、あっと言うまに身体中が色づいて、桜色になる。潜入することもあるから基本的に鍛えてはいるけれど、その筋肉の上にうっすらついている柔らかい肌は、まるで餅のように瑞々しくて張りがある。
ガブリとそこに噛み付くと、見た目の通り桜餅のように甘くて、少しだけしょっぱくて、形容し難い美味しさが俺の口に広がっていった。
——あー、美味い。翔平の味。興奮する。
「あっ、て、鉄平のその噛み方、好きっ……イタ気持ちいい」
以前は、噛み付くなんて絶対に出来なかった。調子のいい時なら可能だったのかもしれない。でも、わざわざ調子を落とすようなことをする必要もなくて、試したこともなかった。
でも、クラヴィーアを手に入れた後、初めて抱き合った時に、俺はなぜか翔平を軽く喰んだ。その時の翔平の反応が、それまで見たことがないくらいに恍惚としていて、本当は少しだけ痛いのが好きなんだと言うことを、その時初めて知った。
「あんまり痛すぎるとお前のこと壊すからな……加減するのは難しいんだけど。……イイの?」
目を閉じて、熱の上がった息を短く吐き出す翔平が、俺の問いかけにうっすらと目を開けて小さく頷いた。
「ん……」
そうやって答えてはみたものの、まだ言いたいことはあるように見えるのに、それを言おうとはしない。唇を結んで俺の目をじっと見つめている。そして、ふと気がつくと、俺に向かって手を差し出していた。
「あ、そう言うこと?」
言葉に出すのは恥ずかしいから、ガイドの能力でテレパスして欲しいと言っているのだと理解した俺は、その手をぎゅっと握りしめた。するとそこから、恥ずかしくて口には出せないけれど、叶えて欲しい翔平の願いがサラサラと流れ込んできた。
——もっと噛んで。どこでもいいから。舐めて、噛んで、吸って。いっぱいして。
「っ、ええええ!」
大胆な翔平の心の声に、俺は思わず大声を上げた。知られた翔平はさらに頬を赤くしていたけれど、俺は翔平よりももっと色の濃い紅が差したような顔をして、胸の高鳴りと高揚に体が震えた。
うっかり暴走しそうになるのを、必死になって宥めた。翔平は繋いだ手を口元に持っていき、恥ずかしそうにそこを隠した。
「だ、ダメ?」
今度は声に出して強請られてしまった。俺は必死になって理性を保つと、翔平の服を剥ぎ取り、その体を肩に抱えてバスルームに飛び込んだ。
「ダメなわけない! ……けど、怪我しないようにしないといけないから、ならすまでもう煽らないで!」
そして、浴槽のお湯の中にプレゼントのボトルの液体を放り込んだ。翔平をそのお湯の中に座らせ、自分の服を脱ぎ捨てる。何度も脱げなくて突っ掛かり、服を引き破りそうになった。
「鉄平、俺体洗って無いのに……」
「もう今日はいいよ。その中で洗って。その間に俺はシャワーするから。これ以上時間かけられない……」
話しながらも時短しようと必死に髪を洗っていると、浴槽の中から翔平の艶かしい声が聞こえてきた。
「……翔平?」
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