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番外編5.前編

「あっ」  悠哉は自身のロッカーを見るなり声を漏らした。 「どうしたの悠哉?ほら、もう授業始まるんだから早く着替えなよ」  既にジャージに着替え終わっている陽翔は、ロッカーの前で動こうとしない悠哉に催促するように呼びかけた。陽翔の言うように、次の授業までほとんど時間がなかった。しかも次の授業は体育、なおのこと急がなければならない。現に悠哉以外のクラスメイトは皆ジャージに着替え終わっており、体育館へ向かおうとしている生徒がほとんどだった。 「おい陽翔、お前もう一着ジャージ持ってないか」  悠哉は勢いよく振り向き、陽翔へ詰め寄る。「えっ?」と陽翔は間抜けな声を出した。 「悠哉ジャージ忘れたの?」 「ああ、完全に忘れた」  悠哉は自宅のハンガーに掛けられた自身のジャージを思い出しため息をついた。週初めの今日、普段なら習慣のようにジャージも持ってきているはずなのだが、今日は完全に頭から抜けていた。そうは言ってもわりかしぼけっとしている悠哉にはありがちな事であり、これが初めてという訳ではなかった。そのため陽翔も特に驚きはしていない様子だった。  悠哉がチラッと時計を見ると、時計の針は授業が始まる三分前を指しており本当に時間がなかった。気がついたらクラスメイトのほとんどが既に体育館へ移動しているようで、教室内も寂しげになっている。 「やっば時間…っなぁ陽翔、ジャージくれ」 「えぇっ?そんな事言われても…あっ」  思い出したかのように声を発した陽翔は、自身の机に掛けてある鞄を持ち上げ机に乗せた。そして鞄の中をゴソゴソと漁り「これならあるけど…」とジャージを取り出す。 「お前二着持ってるとか神か」 「うーん…でもこれ僕のじゃないからなぁ…」  渋るようにジャージを手に取った陽翔に「は?そんな事どうでもいいから早く貸してくれ、マジで時間ない」と悠哉はジャージを奪い取る。 「あっちょっと悠哉!これ僕が先週慶先輩に借りて今日返そうと思ってたやつなんだけど…やっぱり今から他のクラスの人に借りてきなよ」  慶に借りたという陽翔の言葉に、袖を通そうとした悠哉の動きが一瞬だけ止まる。そして改めて今自分が着たジャージがぶかぶかだという事実に大きく顔を顰めた。 「これ難波のなの…」 「うん、僕先週ジャージ忘れて先輩の着てたでしょ?あの時のだよ」  「あー…」と悠哉は先週の事を思い出す。先週の体育の時間、確かに陽翔はぶかぶかのジャージを着ていた。まるで体格にあっていないそれは難波から借りたものらしく、クラスメイトからデカすぎるジャージを弄られていたような気もする。 「僕のジャージじゃないから勝手に貸すのもあれだし…やっぱり他の人に借りてこようよ」  陽翔はそう言っているが、今の悠哉にはそんな時間なかった。悠哉は素早く下も脱ぎジャージに足を通す。 「そんな暇俺にはない、おい早く行くぞ」  駆け足で教室の扉を開けた悠哉は陽翔に呼びかける。陽翔は「ちょっと悠哉…っ!」と焦ったように悠哉の名前を呼んだが、時間がない今の状況に諦めたようにため息をつくと「あとで先輩に謝りに行こうね」と口にした。    無事体育の授業が終わると、悠哉は今日何度目か分からないだぼだぼの裾を捲し上げた。 「なんでこんなにデカイんだよ、ほんとあいつはどこまでも癇に障るな」 「何に怒ってるの…確かに先輩のジャージは僕らには大きすぎるね」  またもやズルっとズレ落ちた裾に、悠哉は「…チッ」と舌打ちをした。先週の陽翔に引き続き、自分の身体の大きさに合っていないジャージを身にまとっていた悠哉はクラスメイトから弄られる羽目になった。全ては自分がジャージを忘れたせいなのだが、それでも難波のジャージがここまで大きくなかったら何も言われなかっただろう。しかもここまで大きいと圧倒的な体格差を突き付けられているようでとても不愉快だった。  こんなにも不愉快な気持ちになるのなら授業に遅れた方が良かったな、と悠哉は思わず後悔する。早くこんな不愉快なジャージから解放されたい、そう思った悠哉はいつもより早足で教室へ向かった。  すると、職員室から恋人である神童彰人が出てくるところが目に入る。こちらを向いた彰人とバチッと目が合った悠哉は自然と足を止めた。 「悠哉?!」 「えっ」  悠哉の姿を視界に入れた途端、彰人の表情が一変した。そしてずんずんと悠哉に近づき「お前…っなんで他のやつのジャージなんか着てるんだ…?」と悠哉の肩を力強く掴んだ。 「は?何だよ急に」  悠哉には彰人が何故そんなに険しい顔をしているのか、その理由がまるで分からなかった。すると陽翔が慌てたように「あっ神童先輩…っこれは違うんです…っ!!」と何やら弁解めいたことを口にしている。 「このジャージは慶先輩のジャージなんです…っ!」 「は?慶のだと?」  彰人の鋭い瞳が陽翔を捕らえた。陽翔が「えっとですね…」と話始めようとした時、悠哉の背後から「おーいお前ら何してんだ?」という声が聞こえてきた。 「あっ慶先輩」 「よう、って悠哉お前先週の陽翔みたいだな」  悠哉が振り返ると、そこには陽翔の恋人である難波慶がいた。悠哉は最悪だと思いながらムッと顔を顰める。 「お前なぁ俺を見る度に嫌そうな顔すんのどうにかしろよな」 「これは生理現象だからどうしようもないんだよ」  悠哉が難波を睨みつけると、悠哉の肩から手を離した彰人が難波へと詰め寄った。そして普段よりも低いであろう声で「おい、慶」と威嚇するように難波の名前を呼ぶ。 「ん?何怒ってんだよ」 「お前なんで悠哉にジャージなんか貸したんだ?」 「はぁ?」  難波は訳が分からないとでも言うように、徐ろに顔を歪めた。それもそのはずだ、難波本人は悠哉にジャージを貸した覚えなどないのだから彰人の言っていることの意味も分かるはずがない。 「慶先輩すみません…っ、悠哉がジャージ忘れたから今日返すはずだった先輩のジャージを勝手に貸しちゃったんです…っ」  申し訳なさそうに謝った陽翔に、難波はぽんぽん、と手を置き「そうだったのか、別に謝ることじゃないだろ」と優しい笑みを浮かべた。 「そうだぞ陽翔、別にジャージを勝手に貸したぐらいで謝ることないだろ」 「はぁ…お前はなぁ…人から勝手に借りといて何も言うことないのか?」  呆れたような難波の視線が悠哉に向けられる。難波相手だとどうにも素直になれない悠哉はつんとそっぽを向き「ちゃんと洗って返す」と口にした。そしてまたずり落ちた裾にイラッとしてしまう。 「なんで慶のジャージなんか借りたんだ、言ってくれれば俺が貸したのに」  未だに不機嫌な彰人は、悠哉が難波のジャージを着ている事に納得がいっていないらしい。何故ここまで彰人が突っかかってくるのか、本当に悠哉には謎だった。 「急いでたんだよ、だからやむを得ずこいつのを借りたんだ」 「だからって…連絡の一つでもしてくれたらジャージの一つや二つ急いで届けに行ったのに」 「おい彰人、今回俺は何も悪くないんだから勝手に嫉妬してんなよ」  難波の嫉妬という言葉に悠哉は引っ掛かる。まさか彰人は自分が他の男のジャージを身につけているというだけで嫉妬したのか、そんな考えが思い浮かび唖然とした。  いや、まさかな…。確かに彰人はかなり嫉妬深いのだろうと悠哉自身理解していた。それでもただ同性である人間のジャージを身につけただけで普通嫉妬するだろうか。悠哉には到底理解出来ない思考だ。 「お前だって陽翔が自分以外の男の服を着ていたらどうする?何も思わないのか?」 「話を変えるなよ、ただ俺の事を恨むなよって言ってるんだ。全部は恋人以外の男のジャージを又借りしたお前の恋人が悪いんだからな」  呆れ果てた様子の難波は、そのまま悠哉達に背を向け「俺先戻ってるわ、じゃあな陽翔」と当たり前のように陽翔の頭を一撫でし去っていった。 「悠哉、僕達も教室戻ろっか」 「ん?ああ」 「じゃあ僕達も戻りますね」  陽翔が彰人へそう伝えると、ふぅ、と息を吐いた彰人は「ああ」と頷いた。    やっと難波のジャージから開放された悠哉は、丸めたジャージを鞄の中へと突っ込む。そして前の席で次の授業の準備をしている陽翔の背中をちょんちょん、とつついた。 「ん?どうしたの」 「さっき彰人の機嫌悪かったのって、俺が難波のジャージ着てたからだよな」  先程の彰人の態度が少し気になっていた悠哉は、陽翔に答えを求めた。 「まぁ、そうだと思うよ。神童先輩悠哉の事になると人一倍敏感になるから」 「だからってあれぐらいで嫉妬するか普通?俺は理解出来ない」  陽翔は難しそうに「んー…」と唸った。 「でもよく彼シャツとか言うじゃん?衣服の着回しってわりと恋人同士の特権みたいなところがあるから神童先輩としては許せなかったんじゃない?」 「恋人同士の特権?俺とお前だって服の貸し借りなんてよくやってただろ?恋人じゃなくてもそんな事普通にするだろ」 「まぁそこは人それぞれの価値観というか…」 「なんだそれ」  悠哉は「はぁ…」と息を吐き頬杖を着いた。悠哉自身、彰人がどこの誰の衣服を着てようが特に気にする事はないだろう。それこそ今日の悠哉のように彰人がジャージを忘れ、難波に借りたって何も思わない。けれどどうやら彰人は違うようだ。  まぁ放課後になれば彰人の機嫌も治っているだろうと思い、悠哉はこれ以上気にしないことにした。  しかし悠哉のその考えは甘かったようだ。放課後、週の半分以上の確率で悠哉の家へ訪れるようになった彰人は、今日も学校帰りそのままの状態で悠哉の自宅へと訪れていた。そしてリビングのソファに座っている彰人は、どこかムスッとしており少なくとも機嫌が良いと言えるような態度ではなかった。 「おい、いつまで不貞腐れてんだよ」  彰人の隣へ座った悠哉は、未だに不機嫌な恋人へ呆れたように尋ねた。 「別に不貞腐れてなんかない」 「…嘘つけよ、まだ難波のジャージを借りたことに怒ってるのか?いつまでもねちねち根に持ってる男は嫌いだな」  悠哉はわざとらしく嫌いという言葉を強調した。すると彰人は焦ったように「違うんだ悠哉…っ」と悠哉の手をぎゅっと握る。 「別にお前に怒ってる訳じゃない…ただ…どうしても慶に先を越された事が気に食わなくて…」 「先を越された…?何言ってんだ?」  彰人の言葉の意味が分からない悠哉は、首を傾げることしか出来なかった。手を離した彰人は、今度は悠哉の肩を掴み真剣な眼差しで悠哉を見た。 「恋人が自分の物を身につける、これは男のロマンだろ」 「…は?お前は何を言いたいんだ…?」  彰人の真剣そのものだと物語っている瞳に、悠哉は困惑した。男のロマンという謎の単語に、ここは笑った方がいいのだろうかと一瞬迷ったが、彰人はあくまで冗談などを口にしているようにも見えない。とりあえず悠哉は大人しく彰人の話を聞くことにした。 「彼シャツという単語をお前も知ってはいるだろう?恋人の家に泊まる際に恋人の衣服を借りる、いわば彼シャツは恋人だけが見れる特権みたいなものなんだ」  恋人だけが見れる特権、そういえば陽翔も似たようなことを言っていたな、と悠哉は思い出す。 「だけど服の貸し借りなんて陽翔ともよくやってたぞ?」 「お前と陽翔の場合は兄弟みたいな距離感だったからまだ許せるんだ。だけど慶のような男に先を越されるのは許せなかった」  悔しそうに拳を握りしめた彰人に、悠哉の唇は震えた。たかが彼シャツだけでここまで真剣に悔しがっている彰人の姿が物凄く面白く見えてしまう。 「俺の服を悠哉が着る、想像しただけでも高揚感に溢れる。だってお前と俺の体格差を考えてみたらかなりのオーバーサイズになるはずだ。そんな悠哉の姿、見たいに決まってる、それに悔しいが慶のジャージを着ていたお前の姿にかなりときめいたのも事実だしな、あれが俺のジャージだったらと考えただけでやばい」  彰人の熱弁が始まると、悠哉はもう限界だった。ぷっ、と一度吹き出してしまったら笑いの波が一気に押し寄せてくる。耐えられずに悠哉は「ふっ…ふははっはははっ」と腹を抱えて笑った。 「ははっお前…っほんと面白いな…っ」 「おい、こっちはかなり真剣に話してるんだぞ」  自分の膝を叩き爆笑している悠哉に、彰人は不服そうに眉を下げた。それでも悠哉の面白おかしい気持ちは消えず、笑いすぎて涙が出てくるほどだった。 「はー…笑った、お前は可愛いやつだな彰人」 「何を言っているんだ、俺が可愛いなんてあるはずないだろう」  悠哉が彰人の頬に手を添えると、ムスッと不貞腐れていた彰人の表情がどこか柔らかくなった。ほんと単純なヤツだな、と悠哉はふっと目を細めた。 「なんか…俺って一生分の運を使い果たしたみたいだな」 「どういう意味だ?」 「お前みたいな男にこんなに愛されてさ、前世で余っ程徳を積んだのか、それとも今まで辛かった分の見返りが来たのか…少なくともこれ以上幸福な事はこれからの人生なかなか起きる事は無いんだろうなって思うよ」  彼シャツごときで嫉妬している彰人が可愛くて、愛おしくて、悠哉の口から思わず本音がこぼれ落ちた。何も持っていない自分が、彰人のような男にこんなにも愛されているなんて普通は有り得ない話だ。彰人に出会えた事が人生最大の幸運なのだと悠哉は改めて実感する。  すると、彰人のたくましい腕が悠哉の身体をぎゅっと抱きしめた。彰人の体温に包まれた悠哉は、少し気恥しい気持ちもありながらそのまま彰人へ体を委ねる。 「俺がお前を愛した事を運という言葉だけで片付けられては困るな。俺が悠哉を愛したのは偶然なんかじゃない、必然だったんだからな」 「何を根拠に言ってんだか。必然的に俺を好きになったなんてお前には分からないだろ?お前と俺が出会わない世界線だってあっただろうし」 「いや、俺はどんな世界線にいてもお前を探し出す。必ず悠哉を愛すって誓う」  彰人の低く優しい声が悠哉の耳に響く。悠哉の口からはふっと息が漏れ出た。 「くっ…ふふっ…はははっ」  彰人の胸に顔を埋めた悠哉は、身体を震わせてなんとか笑いに耐えようとしたが無理だった。駄目だ、面白すぎる、なんでこんなにもロマンチックな言葉を口に出来るのだろうか、と悠哉は彰人が可愛くて仕方なかった。  けれどまたも悠哉に笑われてしまった彰人は納得がいっていないようで、「なんでまた笑うんだ」と不服そうだ。 「お前にはそんなに俺が面白いのか?」 「ああ、最高に面白いよ」 「お前の笑顔が見られるのは嬉しいが、何だか納得いかないな」  流石に虐めすぎたな、と思った悠哉は「悪かったって、いい加減機嫌直せよ」と彰人の背中に腕を回した。 「じゃあ…一つだけ俺の頼みを聞いてくれるか?」 「頼み?」  悠哉から身体を離した彰人は床に置いてあった自身の鞄を開けると、「これを着て欲しい」と中からジャージを取り出した。 「これってお前の?まさかそのつもりでジャージを持って帰ってきたのか?」  悠哉は唖然とした。何故彰人が都合よく自分のジャージを持っているのか、元から俺に自分のジャージを着せるつもりだったからか?用意周到過ぎるだろ、と悠哉は流石に呆れてしまう。 「違う、これはたまたまだ。今日で今週は体育がないから持ち帰ろうと思ったんだ」  本当だろうか、些か疑い深いがとりあえずは彰人の言うことを信じることにした。 「今日着ただけだが、気になるようだったら今すぐ洗濯してくる」 「いや、別にいいよっ、分かった着るから」  腰を上げた彰人からジャージを奪った悠哉は「着たら機嫌直せよ?」と渋々制服を脱ぎ始める。ジャージに袖を通すと、やはり自分の腕の長さに全くあっていない事がすぐに分かってしまった。恐らく難波のジャージよりも少し大きい彰人のジャージは、悠哉にはかなりのオーバーサイズだ。 「はぁ…マジでお前のデカイな。ここまでデカいと最早何も思わない」  上下とも着替えた悠哉は袖を捲し上げる事も面倒くさくなり、ダボッと手足を隠してしまっている布を見てため息をついた。 「ほら、着てやったぞ」  悠哉がそう言っても、彰人は悠哉の姿を凝視しているだけで何も言ってこない。しかし彰人からの視線が痛い、穴が空いてしまうのではないかと心配する程彰人からの視線を感じる。 「おい、せっかく着たのに無言は辞めろよな。何か言えよ」 「…あ、ああ悪い」  悠哉に指摘された事により我に返ったようにハッとした彰人は、口元を押さえまた黙り込んでしまった。なんだこの反応は、せっかく着たというのに彰人の表情は嬉しそうでもなく無表情だ。  もっと面白い反応を見せてくれるのかと思っていたのに、彰人の期待外れな反応に悠哉はムスッと唇を尖らせる。そして彰人の膝の上を跨るようにソファの上へ膝をつき、仕返しかのように正面から彰人の顔を凝視した。 「思ったよりも似合ってなかった?」  彰人の肩に腕を乗せた悠哉は、首をこてんと傾げた。するといきなり彰人から力強く抱きしめられた。急にどうしたんだ、と焦った悠哉は「おい…っ?なんだよ…?!」と彰人の肩を押しやるがビクともしない。 「はぁ…お前は…可愛すぎるぞ…」 「は…っ?」 「似合ってないわけが無いだろう、むしろ似合いすぎてるぐらいだ。可愛い、本当に可愛い」  急に饒舌になった彰人は、抱きしめていた腕を緩め身体を離した。彰人と目が合った途端、悠哉は急激に恥ずかしくなってきた。これはやばい、と察した悠哉は彰人の上から退こうと腰を上げるが、彰人にガシッと腰を掴まれてしまったため身動きが取れなくなってしまった。 「…っ離せって…っ」 「嫌だ、お前から乗ってきたんだろ?」 「そうだけど…っ」 「それにしても…自分の服をお前が着るだけでなんだかお前を独占している気分になるな。まるで俺のモノって証明してるみたいだ」  彰人の指が悠哉の頬へ触れると、悠哉の体温はぼふっと一気に上昇した。彰人のジャージを着ていると一度自覚すると、なんだか全身が彰人に包まれているようで身体が熱くなる。彰人の言う通り、まるで彰人の所有物だと公言しているみたいだ。 「もう脱ぐ…」  羞恥に耐えられなかった悠哉はジャージを脱ごうと腕を動かしたが、彰人によって制止されたためそれは叶わなかった。 「待ってくれ、もう少し堪能させてくれ」 「堪能って…もういいだろ、これデカくて動きずらいからやだ」 「なんだか顔が赤いぞ、照れてるのか?」  彰人のニヤついている顔がどうにも腹立たしく、悠哉はぎゅっと唇を軽く噛んだ。悠哉が照れていることなど、人目見れば彰人にだって分かることだろう。完全に悠哉を面白がっている彰人が憎たらしい。 「さっきまで平然としてたのに、急に赤くなってどうしたんだ?」  悠哉の赤く色づいた耳を擽るように彰人が触れる。そんないじらしい彰人に、悠哉の口は自然と開いた。 「なんか…これ…お前に全身包み込まれてるみたいで落ち着かない…」  自分でも言葉として声に出せているのか分からないほど小さな声で悠哉はそう呟いた。すると、瞳をギラつかせ表情を一変とした彰人に悠哉の唇は勢いよく奪われた。 「んん…っはっ…」  無防備だった悠哉の唇は、気づいた時には彰人の舌によってこじ開けられていた。呼吸が奪われるかのような口付けに悠哉はされるがまま抵抗する暇さえなかった。柔らかく温かい舌の感触が悠哉の口内を満遍なく味わうように動かされる。もう何度目かも分からない彰人とのキスは、いつまで経っても悠哉は慣れることは無かった。 「ふっ…んぅ…っ」  ぺろりと唇を舐められると、彰人の唇は離れていった。まるで行為中を彷彿とさせる濃厚なキスに、悠哉の身体はじんじんと痺れる感覚に包まれる。これはやばいな、と察した時には既に遅く、彰人に押し倒されていた。 「なんでいきなりスイッチ入んの…?」 「今のはお前が悪いだろ」  鋭くギラつかせている彰人の瞳、その瞳に見つめられただけで悠哉の腰は疼くようだった。オーバーサイズのジャージのせいで広く露出されている悠哉の首元に、彰人の唇が落とされる。こうなってしまったらもう逃げることは不可能だ。それでも彰人の機嫌が直るならまぁいいか、と悠哉は嫉妬深い恋人に身体を委ねることにした。

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