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【魔界の第七皇子は、平穏に暮らしたい!】〜気になるあのひとは、魔族殲滅を望む復讐者でした〜 番外編① 桃李 前編 ※注 | 柚月なぎの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
【魔界の第七皇子は、平穏に...
番外編① 桃李 前編 ※注
作者:
柚月なぎ
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番外編① 桃李 前編 ※注
花椿
(
ホアチュン
)
殿。
桃李
(
タオリー
)
は母である
蘭玲
(
ランリン
)
と、同じ宮で暮らしている。 成人した皇子たちは、基本的に自身の宮を与えられそこに住まうのが本来の流れだが、半魔族でありひとの血が流れる
蘭玲
(
ランリン
)
の扱いを知っていた
桃李
(
タオリー
)
は、今も共に生活している。 自分にも少なからずひとの血が混じっており、皇子たちの中でも魔力が低く、武芸も術もそんなに得意ではないため、人界へ派遣されるような任務は与えられなかった。 その代わり、幼い頃に大王である父から与えられた、たったひとつの任務があった。 それは、ほとんど同じ頃に生まれた第四皇子の監視。たった二年しか違わない第四皇子である
梓楽
(
ズーラ
)
。他の兄たちとは百年以上は歳が離れていたので、ほとんど交流もなく、形式的な会話くらいしか交わしたことがなかった。 「
桃李
(
タオリー
)
、お前は今日から兄の
梓楽
(
ズーラ
)
の信頼を得て、その行動や言動、なにを考えているかをすべて監視し、私に定期的に報告すること。
鏡華
(
ジンホア
)
にはくれぐれも気を付けろ。彼女は
梓楽
(
ズーラ
)
に近付く者を排除したがる。自分は
あれ
(
・・
)
に近づきもしないくせにな」 大王は
桃李
(
タオリー
)
が首を傾げたまま見上げてくるのに対して、ふっと口元を緩めた。まだ十にも満たない幼い子供には、理解できなくとも仕方がないだろう。 おいで、と大きな手を目の前に差し出され、
桃李
(
タオリー
)
は立ち上がり父の前まで近付いていき、その小さな手を伸ばした。
花椿
(
ホアチュン
)
殿にわざわざ足を運んだのは、聞き耳を立てるような者がここには存在しないからだろう。 最低限の従者と護衛が配置されており、大王が赴く際は人払いをするので、今の宮はいつも以上に静かだった。
蘭玲
(
ランリン
)
も挨拶を交わした後は、自室に籠っていた。
桃李
(
タオリー
)
に用があると大王が言ったためである。 大きな手は小さな手をそっと掴み、そのまま片腕で抱き上げられる。いつも見ている景色が一変し、高い位置にある視線に戸惑う。 赤い瞳からは先程までの厳しさは消え、どこか優しささえ垣間見える微笑を湛えていた。 「簡単なことだ。
梓楽
(
ズーラ
)
と仲良くなって、たくさん話をすればいい。あやつが心を開くまで、時間はかかるだろうがな。できるかい?」 「兄様と、仲良しになればいいのですか?」 今まで一度もまともに話したことがない兄と、はたして仲良くなれるだろうか?他の兄たちとさえ、挨拶以外の会話をしたことがないというのに。 不安しかないが、できそこないの自分に父が与えてくれた初めての任務。仲良くなって交わした言葉を報告すればいいのだから、難しいことではないだろう。 「でも······兄様は、私なんかとお話、してくださるでしょうか?」 「それはお前の頑張り次第だろう。お前が頑張れば、お前の母も他の妃たちのように優遇される。お前には何よりの褒美だろう?」 母はひとの血が混じっている半魔族であるため、大王は別として、他の妃たちからはかなり冷遇されていた。 自分が頑張れば、母は報われるのだろうか。それなら、やるしかないと
桃李
(
タオリー
)
は心を決める。 その日から、皇子たちが集められる場では必ず
梓楽
(
ズーラ
)
と挨拶を交わすようにした。 魔王候補第二位でありながら、
梓楽
(
ズーラ
)
の周りには高官たちも近寄りたがらず、他の三人の皇子たちも関心がないようだった。 それもそのはずで、
梓楽
(
ズーラ
)
は挨拶をされても誰ともひと言も言葉を交わすことはなく、素通りしていってしまう。高官たちは一応形だけの挨拶はするが、それ以上の余計なことはしなかった。 それが日常と化していたので、
桃李
(
タオリー
)
はまったく気にも留めていなかったのだが、改めて状況を見てみると不思議な光景だった。 仮にも魔王候補、赤い瞳を持つ皇子だというのに、第一皇子の
玖朧
(
ジゥロン
)
との扱いの差に違和感さえある。もちろん、先に生まれもう成人している
玖朧
(
ジゥロン
)
が期待されているのは理解できる。 彼は完璧すぎる皇子だった。 だからだろうか。いつも俯いていて挨拶さえまともにできない
梓楽
(
ズーラ
)
は、あくまでも第二候補、つまり
玖朧
(
ジゥロン
)
の"予備"としての扱いなのだろう。 挨拶を交わしても何度となく無視されたが、ある日偶然、衝撃的な場面を目撃してしまう。
紫烏
(
ズーウー
)
殿は
花椿
(
ホアチュン
)
殿の近くにあり、途中までは同じ路を辿る。大王から与えられた任務は未だ思うようにいっておらず、
桃李
(
タオリー
)
は護衛も付けずにこの辺りを意味もなくうろうろしていた。 もしかしたら、
紫烏
(
ズーウー
)
殿から出て来た
梓楽
(
ズーラ
)
に逢えるかもしれない。そうしたら、偶然を装って会話ができるかもという子供ながらの発想であった。 元々
花椿
(
ホアチュン
)
殿の護衛も従者も最小限しかいなかったので、抜け出すのも思った以上に簡単だった。 目の前に続く整えられた路は、十字に分かれており、高い塀が迷路のように方向感覚を失わせる。何年も通っている道だが、いつも初めて来たような気分になって、
桃李
(
タオリー
)
は右の道に足を向ける。 そんな中、ガシャン! という陶器が割れるような音が響き、
桃李
(
タオリー
)
は向けていた足を止める。その音は
紫烏
(
ズーウー
)
殿の方から聞こえて来た。そのすぐ後に、複数の悲鳴が上がる。 まだ幼い
桃李
(
タオリー
)
は響いた悲鳴に対して、単純に"怖い"と思ってしまった。なぜなら、それはあまりにも悲痛な叫び声で、何度も繰り返しては、そのどれもが途中で途切れてしまうのだ。 ただ事ではないと想像させるには十分で、思わず逃げ出したくなったが、聞こえてきたのが
紫烏
(
ズーウー
)
殿ということもあり、何とか踏み
止
(
とど
)
まる。 (怖いけど····とにかく、覗いてみよう) 薄桃色の羽織をぎゅっと握りしめ、
桃李
(
タオリー
)
は右の道から左の道へと踵を返した。あり得ないことだが、万が一賊でも入り込んでいたら大変だし、勘違いならそれで良いと思ったのだ。
紫烏
(
ズーウー
)
殿の門の隙間から、中の様子が覗えた。その光景に、思わず口を塞ぐ。目の前に広がるその凄惨な状況に声を上げそうになったのだ。 殺風景な庭に佇む小さな影。その少し先に満足そうな笑みを浮かべて立っている、紫色の優雅な上衣下裳を纏う女性。 あれは、
梓楽
(
ズーラ
)
の母である
鏡華
(
ジンホア
)
だ。庭の真ん中で赤を滴らせた剣を握り締め、立ち尽くす
梓楽
(
ズーラ
)
の後ろ姿が見えた。 その周りでぴくりとも動かない者たち。纏っている衣を見るに、護衛の武官や従者たちだろう。状況が全く呑み込めない。 そこには心臓を貫かれ、無残にも絶命している者たちの姿があった。いったい何が起こっているというのか。 「良い子ね、
梓楽
(
ズーラ
)
。これであなたに近付く者はいなくなったわ。わかったでしょう? その者たちはお前のせいで死んだの。お前は一生、誰とも関わらずにひとりで生きていかないと駄目よ? お前は誰にも触れられることなく、私以外に愛されることもなく、ただの駒として大王様に一生を尽くすの」
梓楽
(
ズーラ
)
は
鏡華
(
ジンホア
)
の言葉に対して何か言うでもなく、ただ剣を強く握り締めていた。
桃李
(
タオリー
)
は
鏡華
(
ジンホア
)
に対して、今まで美しくて怖いひとという漠然とした印象しかなかったが、その言葉を聞いて、その眼を見て、狂った愛情で
梓楽
(
ズーラ
)
を縛る、恐ろしいひとという現実を思い知る。 狂気。 これが
梓楽
(
ズーラ
)
にとっての日常なのだろうか? 自分とはあまりにもかけ離れすぎていて、想像もできない。
蘭玲
(
ランリン
)
はいつも優しく微笑みかけてくれるし、私の可愛い
桃李
(
タオリー
)
と言って頭を撫でてくれる。たくさん褒めてくれるし、甘やかしてくれる。
鏡華
(
ジンホア
)
は興味が無くなったのか、侍女を連れてさっさと奥へと消えていった。それを待っていたのかのように、握っていた剣が地面に音を立てて落ち、繋がれていた糸が切れたかのように、
梓楽
(
ズーラ
)
もその場に崩れ落ちる。 「ごめ····な、さい········ごめ······っ」 カタカタと震える小さな身体を自分で抱きしめるように、膝を付いたまま地面に伏せて蹲る。それはまるで、自分の周りで息絶えている者たちへの懺悔のように見えた。 状況はよくわからないが、
鏡華
(
ジンホア
)
が言っていたことを読解するに、自分に善くしてくれただろう護衛や従者を、彼自身の手で残酷に殺させた、ということだろうか。 こんなこと、赦されるのだろうか? 宮ごとに配置されている武官や従者は、確かに皇子や妃の所有物ではある。しかしその扱いが自分の宮とあまりにも違いすぎて、幼い頭では理解できない。あんな状況に置かれている
梓楽
(
ズーラ
)
を、どうやって救ってあげたらいいのか。 救う? 自分で考えて、自分で問いかける。そんなこと、できるわけがない。 (父上は、酷い扱いを受けている兄様を心配して、私にあんな任務を与えたのかな?) ふと、父の言葉が頭を過った。 『
鏡華
(
ジンホア
)
にはくれぐれも気を付けろ』 あの時はその意味を知りもしなかったが、今なら解かる。 蹲ったまま震えている
梓楽
(
ズーラ
)
を見守る。立ち上がるまで、ずっとその姿を見つめていた。できることなら駆け寄って、声をかけてあげたかった。けれども、ふたりを隔てる壁はぶ厚く、どうすることもできない。 なにより、もし
鏡華
(
ジンホア
)
に見つかったらと思うと、怖くて動けなかった。 この時はどうすることもできず、やがて立ち上がった
梓楽
(
ズーラ
)
が、周りに横たわる無残な姿の死体を弔う姿を見届け、その場を後にした。
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柚月なぎ
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