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ep11. 俺様皇子は案外出来る奴
威勢よく目覚めたアルバートは、起き上がると一変して項垂れた。
ベッドに足を降ろして首の後ろを掻きながら、気まずそうにしている。
「あのさ、なんだ。悪かったな。俺、最初に結界破られて、気絶した。役立たずで、本当に申し訳ない」
意を決したように深々と頭を下げる。
そんなアルバートの肩を、セスティがひょいと持ち挙げた。
「皆の矢面に立って一番危険な場所を守ってくれたのがアルだ。アルが最初に俺たちを守ってくれたから、無事だったんだよ」
「そうですわ。アルの防御結界がなかったら、恐らく全員死んでいましたもの」
微笑む二人を見上げていたアルバートが、照れたような気まずい表情をしている。
「だってさ、良かったね」
半目の半笑いで、マイラがアルバートの肩に手を置いた。
「お前は、慰めてくれないのな。熱い抱擁とかしてくれてもいいんだぞ」
ほらほらと腕を伸ばすアルバートから、マイラが距離を取る。
「気持ち悪いこと言うな。一人で反省してろ」
フイ、と顔を逸らすマイラも、どこか安堵した表情に見えた。
アルバートの目がカナデに向いた。
「お前、カナだろ? 男の姿になってても、わかるな。魔力が変わらないし、何より。それがお前の素の姿なんだろ?」
少しだけ驚いた。
アルバートはカナデの事情も『儀式』以降の二年間の出来事も知らないはずだ。
カナデ以上にセスティとリアナが驚いた顔をしている。
「なんでわかったの?」
代弁するようにマイラが問い掛けた。
「前の、女のカナデの方が違和感あったからな。着ぐるみ一枚着ているような感じっていうの? マイも感じていたんじゃないか?」
「まぁね。今の方が自然には見えるよ。でも、あくまで《《男のカナデに会ったから》》思うことだけどね」
なるほど、天才肌とはこういうことかと、カナデは思った。アルバートは多分、考えるより感じとる直感型の天才だ。
「んー、そうだけど、そうじゃないんだよな。多分、今の方が魔力を自由に使えるだろう? 女だったカナは内側に色んなものを溜め込んでる感じだった」
そういわれても、と思う。
女だった頃の記憶がないカナデにとっては、比べようもない。今はまともに魔法も使えないのだから、余計にわからない。
「俺、記憶がないから今は魔法もまともに使えないし、よくわからないかも」
アルバートが目をひん剥いた。
「記憶が、無い? 魔法が使えない? じゃぁ、さっき俺を起こしたアレは何だよ」
カナデは、自分の額に指を当てて、先ほど起こった事象を思い返した。
「えーっと。何となく指を当てたら、バチバチってなった。アルの魔力が暴走したらしいから、とりあえず笛を吹いてみた」
アルバートが呆然とカナデを眺めた。
呆れかえっているといった表情だ。
「アル、今のカナはこんな感じなんだ。決してアルを馬鹿にしている訳じゃない」
「カナが飛ばされた先の国が、魔法皆無でさぁ。概念が創作物って感じだったからね。そういうところで、記憶がない状態で二年暮らしてたからね」
「決しておバカになった訳じゃありませんのよ。アルの指摘通り、前より強い魔術が使えていますわ」
三者三様に取り繕ってくれているようだが、悲しいような怒ってもいいような気分になるのは、何故だろう。
「いや、俺もな、起きたばっかりで、皆の事情も今の状況も分かっていないからな。ただ、あれだけすごい魔法を使っておいて何言ってんだコイツって思っただけなんだよ。悪いな、カナ」
謝られたが、素直に頷けないのは何故だろう。
「眠っている状態で、カナの魔法を感じ取ったのか?」
セスティの問いかけに、アルバートは頷いた。
「意識はずっと起きてたよ。魔力を封印されてたし、体の動きも封じられていたから何もできなかった」
「それは、辛かったよな」
体が動かないのに意識だけある状態で二年間寝たきりなど考えるだけで、しんどい。メンタルが良く持ったものだと思う。
「魔法のイメージトレーニングには、ちょうど良かったけどな」
にっかり笑うアルバートを見て、顔に強メンタルが現れていると思った。
(マイラはへこむとか、慰めるのめんどいとか言っていたけど、杞憂じゃないのか。それとも、マイラの前でだけはへこむのかな)
アルバートはマイラに好意を寄せているように見えるし、ゲーム通りの強がりなら、そういう一面もあるのだろう。
「あー、それでさ、この場にキルとジルがいないってことは、俺と同じような目に遭っているんだよな?」
アルバートの問いかけに、セスティが険しい表情で頷く。
「キルもジルも、今どこにいるかもわからない。ジルに至ってはカナと同じように記憶がない状態かもしれない」
「只、アルのように眠っているわけではありませんの。自分で移動して、もしかしたら身を潜めているのかもしれませんの」
セスティとリアナの言葉を聞いて、アルバートが黙り込んだ。
「……二人の居場所は探せるかもしれない。ただし、どんな状態であっても、カナの魔法が不可欠になる。俺を目覚めさせるのが、カナでなければならなかったように」
「どういうことだ?」
前のめりに問うセスティをアルバートが見上げた。
「まだ確信がない。俺が寝ていた間の話を聞かせてくれ。カナデが何故、男の姿に《《戻って》》いるのかも。詳しい話は、それからだな」
アルバートが思いっきり伸びをした。
「久しぶりに体を動かせるのは、嬉しいなぁ」
伸びたまま、アルバートがカナデに目を向けた。
「何があっても俺たちが守ってやるから、安心しろ、カナ。俺は巫を守る騎士であり民を守る王族だからな」
目配せされて、頷いた。
俺様キャラの天才は決して悪い奴ではないし、上に立つ素養をちゃんと備えている男に見えた。
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