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第39話 誕生日プレゼント

 ホテルの窓から晴れ渡る空を眺める。やけに景色がいい最上階の部屋で、こういうことってあるんだな、と直桜は思っていた。  楓と別れてすぐに、スマホを確認した護が蒼い顔でやり取りを始めて、やけに赤い顔をしてやり取りを終えたので、何事かと思った。 「明日は二人とも休みで良いそうです」  一言、そう告げて護が連れてきてくれたのが、やけに高級そうなホテルだった。 「今日は、ここに泊まれと、桜谷さんからの指示です」  同じように外の景色を眺める護が狼狽える目で、直桜をちらりと窺う。 「直桜、私の免許証、持ってますか?」  掛けていた椅子から立ち上がり、ポケットを弄る。  もう一度掛けてスーツの内ポケットを探すが、見つからない。 「あれ、ない、かも」 「副長官室に落ちていたそうです。明日、取りに寄るようにと」 「あー、ごめん」  何となく理解した。  免許証を見て護の誕生日を知った陽人が気を回したのだろう。護が誕生日に頓着がないことも、直桜が東京の地の利に詳しくないことも知った上での配慮と思われる。 「いえ、私の管理不足です。しかしまさか、桜谷さんからこんなプレゼントをされるとは」 「プレゼント?」 「……今日、この後の予定を聞かれまして。帰宅と答えたら、こうなりました。誕生日プレゼントだそうです」 「すごーく陽人っぽい」  そういう気障(きざ)なことを、さらりとやってのけてしまう男だ。  変わらないなぁと思う。  護の手が直桜に伸びて、顔を包まれた。 「プレゼントは直桜込みだそうですよ」  唇に触れるだけのキスが落ちる。   「それを陽人に言われるのは、なんかムカつくんだけど」  顔が熱いまま、不貞腐れた気持ちになる。  護の腕が直桜を抱き締めた。 「私は嬉しいですよ。桜谷さんに交際の許可を頂けたようで。桜谷さんは直桜にとって大事な人でしょう」 「大事っちゃ、大事だけど」  煮え切らない直桜の答えに、護がクスリと笑った。 「今日、二人が話している姿を見ていて、思いました。大事なお兄さんだからこそ、直桜は桜谷さんが苦手なんですね。認めてほしい相手なのでしょう」  護に言い当てられて、直桜は言葉に詰まった。  一回りも年が違う陽人は、集落にいた頃から直桜にとって特別だった。槐とは違う意味で脅威であり、憧憬の対象だったと思う。  だからこそ、近づきたくなかった。自分が求めていた『普通』は、陽人が望む直桜ではないとわかっていたから。  陽人と同じ方向を向く覚悟をした今は、認めてもらえるのは素直に嬉しい。 「まぁ、今日は、ちょっとだけ、嬉しかったかな」 「たくさん、褒めて貰えましたね」  気恥ずかしい面持ちで護を見上げる。 「護のお陰だよ、全部。護が俺に、自分を受け入れる覚悟をくれたから」 「私が直桜に、普通を捨てさせたのに?」 「まだソレ言うの? 俺はもう普通は要らない。護と平穏に暮らせる未来が欲しい。だから13課で働くって決めたんだ」  護の腕が直桜の肩を包み込む。 「後悔、しませんか?」 「しないよ。それにもう、後戻りできない所まで来ちゃってるだろ。今更、護がいない生活なんか、俺には出来ない」  護の肩を離して、自分から口付ける。  絡まる舌を強く吸って、唇を舐め挙げた。 「そんなに気にするなら、責任取って一生傍にいてよね」 「勿論です。やっぱり直桜が最高の誕生日プレゼントですね」  見上げる護に、微笑み掛ける。 「誕生日、おめでとう。これから毎年、二人でお祝いしよう」  深まる口付けは、離れることのできない二人を更に深く結びつけ絡まる糸のようだった。

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