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第31話★

 思えば、駿太郎が友嗣の意見を求めた時、彼は戸惑う素振りを見せた。あれは、言っていいものかと迷っているのではなく、もっとそれよりも前の段階――何を言えばいいのかわからなかったのでは、と思う。けれど接客業をしているうちに、甘い声で「きみはどうしたい?」と尋ねることを覚えたのだろう。彼の処世術は、そんなところにも現れていた。本当に、細かく観察していれば、彼の問題行動の原因は一つだったのに。 「友嗣」  駿太郎は抱きつかれたまま、友嗣を引き倒す。傷付いた友嗣を慰めたい。駿太郎はそう思って彼の背中を撫でた。 「……こうして身を寄せあってると、あったかい」 「そうだな」  それは体温の話だけでなく、心も温まったからだろう。友嗣はずっと、それだけを求めていたのかもしれない。ただ、一人で立つには傷が大きすぎて、どうにもならなくて、自棄になって。 (将吾サンは、金と知識は与えられても、愛情までは与えられなかった)  将吾では友嗣に、人肌の温もりまでは与えられない。だから同じく寂しがっている自分をあてがった。 (このままじゃ依存的だけど。……いい。友嗣とこれから一緒に成長していけば)  お互いに前向きなら、きっと悪い方向には転ばないと思う。駿太郎は顔を上げた友嗣の両頬を、撫でた。 「……していい?」 「うん……」  友嗣の質問に何を、とは聞かなかった。友嗣は顔を近付け、唇に触れてくる。最初は啄むようにそっと。次第に吸い上げるようなキスに変わり、優しく慈しむようなそれに、駿太郎の意識は溶けていく。  閉じた視界の向こうで衣擦れの音がした。体勢が変わったことで深く息が混ざり、撫でられた腰の奥がじん、と熱くなる。 「ゆーじ……」 「うん。シュン、大好き」  唇を合わせながら互いの名前を呼び合い、それをきっかけに舌が絡み合う。唇や舌先を舐られ、駿太郎はひくりと肩を震わせると、友嗣の舌は心得たように上顎や歯列まで撫でた。 (なんか、初めての時より丁寧だ……)  前と今では、目的は変わらない。けれど前の方がもっと即物的だった。駿太郎の身体を慈しむ手はこんなに寄り道をしなかったし、動きもゆっくりしている。 「……っ、ん……っ」  そんなことを考えていたら、友嗣の手が脇腹を掠めて思わず声が出た。服の上から胸を探られ、敏感なところを掠めて思わず腰を引く。  間近で、友嗣が微笑んだ。 「……ここ?」 「……ゃ、んっ、……んん……っ」  胸を爪で引っ掻きながらキスをされ、くぐもった声が上がる。苦しくて首を反らすと、顎から首筋に唇が這い、意図せず腰が跳ねてしまった。 「やっぱ敏感。……かわいい」  少し上擦った友嗣の声がしていたたまれない。やられっぱなしも嫌だったので、自らも友嗣の胸に指を這わせると、彼はくすりと笑った。 「俺もそこ、すき……」 「……そっか」  駿太郎はそう言うと起き上がる。どうしたの、という友嗣の下から抜け出し、友嗣を背もたれに押し付けた。  いつも友嗣は、眠らせてもらうために自分のことは二の次だったのだろう。けれど、今は違う。  これは、二人で気持ちよくなるためのものだから。 「俺だって、友嗣を気持ちよくしたい」 「……ふふ、かわいーなぁ」  生意気なことを言う友嗣の唇を自分ので塞ぎ、駿太郎はルームウェアのトップスを脱ぐ。深く浅くキスをしながら、友嗣のトップスも脱がせていった。 (やっぱ、身体のバランスもいいよな)  背は高い方の友嗣だが、手足も長くて程よく筋肉が付いている。いつも緩くて子供っぽい口調で話すけれど、身体は立派な男だ。そしてそんな友嗣の身体に、欲情している自分がいる。  駿太郎は再度軽く友嗣の唇にキスをすると、そのまま肌の上を辿って胸に行き着いた。すでにつんとしている先を口に含むと、切なげな吐息が友嗣から漏れてくる。  駿太郎はそこに触れながら友嗣の腰を撫で、鼠径部をなぞり彼の中心も撫でた。そこはもう完全に膨れ上がっていて、初めてやった時とは違うな、と嬉しくなる。 (逆に言えば、最初は本当に俺に興味がなかったんだな……)  ルームウェアの上からゆるゆるとそこを撫で、そのまましばらく胸や口にキスをしていると、友嗣は身動ぎした。 「気持ちいい?」 「ん、……でもじれったい」  そう言った友嗣は、自らパンツと下着を脱ぐ。ついでにシュンも、と下着ごとパンツを膝まで下ろされたかと思ったら、すぐさま彼の手が駿太郎の勃ち上がったそれを握り込んだ。 「ちょっ、……っ、あ……っ」  息付く間もなくそれを扱かれる。途端に背中を這い上がる何かに腰を反らし、友嗣の両肩に手を置いて耐えた。 「ま、待てっ。――……ッ!」  強い刺激に声を上げそうになって、片手で自分の口を塞ぐ。 「ああいい……シュンのその耐えてる顔、すごく好き……」  そうだった、と駿太郎は友嗣の顔を見た。一方的に慰められた時は別として、初めてした時も、彼は少し加虐嗜好があるような発言をしていたのだ。 「ゆ、ゆーじ……っ」 「なに? いきそう? いいよ」  そのまま胸に舌を這わされ、太ももがガクガクと震えた。いやいやと首を振り、霞む視界で彼の瞳を見つめる。  そこには、言いようのない――ぶつけようもない静かな怒りが、彼の表情にあった。  どうしたらいいのかわからなくなるほど他人に期待ができず、自暴自棄になってどうでもいいと思っているのに、それでも生きることを諦めなかった自分を認めて欲しい。駿太郎は友嗣の瞳からそんな感情を読み取った。  だから駿太郎は、そんな友嗣を受け入れる。大丈夫、お前はもう一人にしない、と。 「ゆ、じ……好き……!」 「……っ」  一生懸命生きてきてくれてありがとう。そんな気持ちを込めて駿太郎は彼の唇にかぶりつく。細く悲鳴を上げると怒張から熱が吐き出され、彼の手や下腹部を濡らした。 「シュン……」  その場にへたりこんだ駿太郎は、余韻が収まるまで待てと、彼の両手を掴む。クラクラする頭で恋人を見ると、友嗣ははらはらと泣いていた。 「え、どうした?」 「あ、いや……。なんかわかんないけど、シュンが許してくれたように感じた……」 「許すって……何も拒否してないぞ?」  そう言いながら、たった今、キスに乗せた想いが通じたのかもと思った。それで嬉しくなったのなら駿太郎も嬉しいし、嬉しくて泣いているのなら、慰めたくなる。 「うん……。シュン、おれ、がんばるね……」 「ああもう、泣くなよかわいいなぁ。友嗣はそのままでいいから」  そのままメソメソ泣く友嗣を、駿太郎は抱きしめた。自分が弱った時は友嗣が、友嗣が弱った時は自分が支えたらいい。慰める時は切なくて胸が苦しいけれど、それ以上に相手に何かしてあげたい、と突き動かされる衝動があるのだ。駿太郎はその気持ちを大事にしたいと思う。

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