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第32話★
「友嗣、……おいで」
駿太郎は友嗣の膝から降り、ソファーに寝転ぶ。話のあとはこういう流れになると思っていたので、入浴した時に準備しておいて良かったと笑った。
「……シュン……」
素直に覆いかぶさってきた友嗣は、まだ泣いている。そのうち幼い子供のように泣くんじゃないかと、駿太郎は彼の頬を撫でた。
でも、それでもいいと思う。きっと友嗣は、そうすることもできない環境だったのだろうから。
「しゅん……」
甘えるような声で、友嗣がゆっくりと入ってくる。圧迫感に息が詰まりそうになるけれど、友嗣の肩に腕を回して抱きつき、息を吐いてやり過ごした。
「シュンと、シュンの周りは温かい。すき……」
「ん……」
自分の中で脈打つ友嗣を感じながら、駿太郎は彼の唇を啄む。
「この家の中も、買ってくれたルームウェアも、……シュンの中もあったかい……」
だから好き、と友嗣は唇を吸い上げながら駿太郎を揺さぶった。軽い動きなのに全身が総毛立ち、一瞬にして身体が熱くなる。中の粘膜が擦れる度、意識が引きずられるほどの快感が駿太郎を襲い、思わずソファーの肘掛けを握って身を捩った。
「……っ、――……ッ!!」
腰が勝手に跳ねる。喘ぎ声も上げられないほどの強い刺激に、目の前に星が飛んだ。
すると、友嗣の動きが止まる。どうしたのかと思って彼を見ると、間近で駿太郎の顔を見ていた友嗣は、涙を溜めながら嬉しそうに笑った。
「シュン、気持ちいい?」
「ん、……ぅあッ、や、……嫌だそれ!」
友嗣はゆっくりと腰を動かす。その度に駿太郎は意図せず太腿や腰を震わせ、視界が明滅するのを耐えた。そのせいか頭もクラクラして、どこかに落ちそうだと友嗣の二の腕を掴む。
「ふふ、すーごい……シュン、中でいってる?」
初めての時も、なか、好きそうだったもんね、と友嗣はなぜか嬉しそうだ。そして、おれもシュンのなか、大好き、とそのまま緩慢な動きを止めない。
「だっ、から! 嫌だってそれ……! ああ……っ!」
今度は駿太郎が泣く番だった。苦しさによる生理的な涙を浮かべると、友嗣は動きを止めてくれる。けれど全身の震えは収まらず、その振動がまた刺激になってしまい、駿太郎の身体は勝手に意識を飛ばした。
「シュン、好きでしょ? ここ」
「す、すき……ぃ!」
俺も、と友嗣は、今度こそ激しく動き出す。
「こういうことしてる時だけ、生きてる感じがした。色も音も、味もハッキリする気がした」
はあっ、と友嗣は切なげに息を吐いた。
「でもシュンといると、全部クリアになる」
――ああそうか、と駿太郎は思う。
彼とセックスする前の、感情を見せない笑み。あれは本当に感情が動いていなかったのか、と。ただ単に、接客業で身につけた、対人スキルにすぎなかったのか、と。
「あ……っ、ゆーじ……ッ!」
震えた脚の間から白濁した体液が迸る。連続する絶頂に太腿がまた大きく震え、友嗣を挟み込んだ。痙攣が収まり彼を見ると、潤んだ瞳の友嗣と目が合う。
「大好きって言われてるみたい……」
「……っ、大好きだよ! 不安なら何回でも言ってやるか……あああ……ッ!」
駿太郎の言葉は最後まで発せられることはなく、最奥を強く穿たれて悲鳴を上げる。強い刺激に生理的な涙が浮かび、滲む視界でまた友嗣を見つめる。眉間に少し皺を寄せ、上擦った声を漏らしていた彼は、目を細め、顔を近付けてきた。
「……ッ、あ……っ」
唇が触れたかと思ったら、友嗣は声を上げる。大きく彼の腰が震えて、中が熱くなった。彼が達したとわかったのと同時にあることに気が付き、駿太郎は慌てる。
「お、おま……っ、ゴム!」
「あ、……はは、すっかり忘れちゃったね」
事後の余韻もなく駿太郎は抜けと騒いだ。けれど友嗣は動く気配がない。それどころかまたゆっくり腰を引いては、同じスピードで入れてくるのだ。
「あっ、やっ、だからっ、それやめ……っ」
「やめていいの? 好きでしょ、これ」
「んっ、んんんー……ッ!」
首と背中を捩って反らし、震える太腿に力が入る。強い刺激に友嗣を睨もうと、目を開けたら目尻から涙が零れた。
「ふふ、……気持ちいいね?」
心底嬉しそうに笑う友嗣に、駿太郎は内心で罵る。けれど彼の萎えない怒張と、複雑にうねりながら熱を上げる駿太郎の中は、まだ終わりたくないと訴えていた。
――シュンが、俺の生活に色をつけてくれた。
息を切らしながらそう訴える友嗣。自分は何もしていないし、ただそばにいただけだ。けれど彼にとっては特別なことで、これ以上ないくらい嬉しかったのなら、いくらでも応えてあげたいと思う。
「ゆーじ……っ」
「うん、捕まえてて?」
自棄にならないように。これからもシュンの隣にいられるように。そう言って友嗣は身をかがめた。駿太郎は彼の首に腕を回すと、彼の体温で汗の匂いが上がってきた。それがどうしようもなく胸を切なくさせる。
しっとりとした彼のうなじや肩を撫で、クラクラする意識をしがみつくことで保つ。友嗣の息遣いや時折漏れる声、そのすべてが愛おしくて、揺さぶられながらも後頭部を撫でた。すると友嗣は、目を細めて肩を震わせるのだ。
「……っ、気持ちいい……っ」
思わず、といった彼の声は掠れている。友嗣は駿太郎の首元に顔をうずめ、匂いを嗅ぎながらそこに吸い付いたり、舐めたりしながら駿太郎を穿った。
――こんなに、相手が愛おしいと思いながらするセックスは初めてだ。駿太郎はグッと首を反らすと、音も光も、すべての感覚が一瞬にして飛ぶ。
「う……っ」
同時に友嗣もうめいた。中で友嗣が力強く脈打つのを感じると、後ろが勝手にそれを飲み込もうと締まる。自分の意思じゃないのに、と思っていると、彼の髪の毛を引っ張っていたことに気付いた。息も絶え絶えになりながら謝る。
「ん、……ふふ。シュンずっといきっぱなしだったね」
「おかげですげーつかれたぞ……」
ご機嫌で笑う友嗣は、今度こそ駿太郎から出ていく。あとを追うように後ろから熱い体液が溢れて、むず痒さと羞恥心で顔を手で隠した。
「……どーしたの?」
「いや……せっかく買ったのに使わず致したことがな……」
「そっか。……じゃあ着けてする?」
「もうむり!」
まだやるつもりか、と駿太郎は手を外して友嗣を見ると、彼は声を上げて笑った。友嗣がこんなに破顔することなんて今までになかったので、彼の中で何かが変わったんだな、と思う。
そしてそれは、決して悪い方向じゃない。そう感じる。
「ゆーじ」
「ん?」
駿太郎は手招きをすると、友嗣は素直に顔を近付けてきた。その首に腕を回すと、耳に吹き込むように囁く。
「……ありがとう」
「……それは俺のセリフだよ」
お互いそう言うと、どちらからともなく唇が重なる。
大丈夫、今まで絶望していたぶん、未来はいいことだらけだから。
駿太郎はそう呟くと、友嗣は泣きそうな顔をしながら笑い、また少しのあいだ、キスをした。
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