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3-1 碧水

 白鳴(はくめい)村から離れ、一行は碧水(へきすい)の都、白群(びゃくぐん)の敷地に辿り着いていた。  白漣(はくれん)宗主と白冰(はくひょう)白笶(びゃくや)の三人は邸に戻るなり、雪鈴(せつれい)たちに金虎(きんこ)の三人の客人を任せると、早々と宝玉を持って出て行った。  行き先は裏手に聳える霊山にある玄武堂で、宝玉を祭壇に戻し、封印するのが目的だった。  烏哭(うこく)が動き出したということは、封じられていた宗主や四天、傀儡(かいらい)にされた妖獣や妖者たちが、どこかに潜んでいるということだ。  だがそうなるともうひとつの疑問が浮かぶ。それらを封じていた神子(みこ)の魂は、どうなってしまったのかと。  玄帝(げんてい)堂はひんやりとしており、まるで氷でできた廟のようだ。奥に続く道は一本で、天井は高いが堂自体はそこまで広くはなく、少し歩くと最奥へと辿り着いた。  最奥は湧き水で満たされており、洞穴の青白い光が反射しているのか、水の色も青緑色の不思議な色合いを浮かべている。  底が見えるくらいの透明さはこの堂の神聖さを物語っており、その中心にある祭壇まで続く道は等間隔に並べられた四つの岩の上を歩く必要があった。  祭壇の上に宝玉がぴったりとはまるように造られた白い磁器の宝玉台があり、白漣(はくれん)は白い袋から取り出した玄武の漆黒色の宝玉を丁寧に収めた。  洞穴の底から湧いている水の音だけが静寂の中響き渡り、祭壇から戻って来た宗主の前に白冰(はくひょう)白笶(びゃくや)が寄って来る。 「白冰(はくひょう)白笶(びゃくや)、この堂の入口の結界を強化し、さらに複数の封印を施す」  ふたりは各々頷く。三人は洞穴の外に出ると、重い扉を閉める。宗主である白漣(はくれん)が持っていた鍵を使って錠前をかける。  宗主を挟んで横に並んだ白冰(はくひょう)白笶(びゃくや)が同時に印を結ぶ。それぞれの前に紋様の違う陣が現れ、三重の封印が施された。 「これで当面は心配いらないだろう。さあ、邸に戻ろう」  三人は霊山を後にした。

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