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彩雲華胥〜起承編〜【第一部】 6-3 少陰の隠し事 | 柚月なぎの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
彩雲華胥〜起承編〜【第一部】
6-3 少陰の隠し事
作者:
柚月なぎ
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6-3 少陰の隠し事
無明
(
むみょう
)
も心配だが、あの場に来ることすらできなかった
白笶
(
びゃくや
)
の身も心配だった。まさか
華守
(
はなもり
)
が神子と対峙することになるなど、誰も思わなかっただろう。
竜虎
(
りゅうこ
)
が白帝堂に辿り着いた頃には、もうすでに夜は明けており、眩しい太陽が空を照らし出していた。堂の扉は開いており、恐る恐る覗いてみれば、衣も身体もぼろぼろになった白笶が寝かされていた。それを見つけた途端、慌てて這うように駆け寄り、生死を確かめる。 「よかった、生きてる」 しかしあまりにも酷い全身の怪我に、竜虎はあの後何が起きていたのかを、語られずとも察してしまう。この怪我は無明が負わせたのだ。おそらく、その身を挺して無明にかけられた術を解き、目覚めさせたのだろう。 無明には一切傷を付けることなく。 その覚悟に、竜虎は言葉を失う。そ、と白笶の身体を起こし、右腕を自分の首に回すと、そのまま重みを感じながら立ち上がる。この状態で動かすのは良くない気がしてならないが、ここに置いておくわけにもいかなかった。 堂を出て行く後ろ姿を、
逢魔
(
おうま
)
と
少陰
(
しょういん
)
は確認し、お互い目配せをする。 「いや、気になるなら手伝えばよいじゃろうに、」 「なんか、ほら、お互いほとんど初対面だから」 そんなことを気にする神経はなさそうじゃが、と少陰は喉元まで出かかった言葉を呑み込む。そもそも最初から宿において来ればよかっただろうに。 「まあ、良いわ。色々世話になった。結末は最悪じゃったが、問題は解決した」 「けど、色々と疑問は残る」 そもそも
蘭明
(
らんめい
)
を操り、最後の最後に殺す必要があったのかということ。彼女は別に
烏哭
(
うこく
)
の情報をなにか話したわけでもなく、むしろ立ち直ろうとしていたようにも感じた。 「彼女を殺さなくてはならなかった理由は、なに? 彼女は何を見たんだ? もしくは聞いた? なんだかすごく重要な気がする」 「考えても仕方あるまい。死人に口なしじゃ。いずれ解ることだろう」 少陰は砕け散った宝玉に眼をやる。白い宝玉は、もう元には戻せないだろう。それに気付いた逢魔が、その欠片のひとつを手に取った。 「ねえ、姐さん。四神の契約はこの地に加護と恩恵を齎すけど、神子にどんな影響を与えるの?」 かつての神子は、始まりの神子の魂の半分が転生した身だった。けれど、あの
晦冥崗
(
かいめいこう
)
で神子たちはひとつになり、真の神子の姿を取り戻したはず。 なら、無明は人の身でありながら、真の神子ということになる。 しかし、生まれてからずっと見てきたが、そんな片鱗はなかった。かと言って、自分たちのような曖昧な存在でもない。 「それは、····妾の口からはなんとも言えん。神子《みこ》に聞け」 その含みのある答えに、逢魔は眼を細める。あの時、どうして無明は何も教えてくれなかったのだろう。 白虎の契約の後、明らかに様子がおかしかったのだ。白笶も逢魔もそれ以上は訊けなかったというのもあるが、なんだか胸騒ぎがする。 「まあ、とにかく、あやつが目覚めるまではここにおるのじゃろう? 暇なら妾に付き合え。お主も
玉兎
(
ぎょくと
)
は久しいじゃろう?」 逢魔は頬を掻いて、まあねと答える。この地は、特別だった。かつての神子に拾われた地。そして、彼と出会った地でもある。 「けどさ、彼があのひとだったなんて、思いもしなかったよ。姐さん、まさか知ってたなんて言わないよね?」
太陰
(
たいいん
)
が白笶を見ただけで気付いたのだ。少陰が気付かなかったわけがない。 「さ、さあ······妾は忘れっぽいからのぅ······よく、憶えておらんのぅ」 「あっそ。いいよ、別に。過ぎたことだ」 遠い日々に思いを馳せる。 それは、とてもあたたかく、優しい日々だった。けれども、人と
鬼神
(
きしん
)
では生きる時間が違った。あの頃は、神子を失い、
黎明
(
れいめい
)
も死に、逢魔はただぼんやりとそこにいるだけだった。 だからそんなことも解らないで、そのほんの少しの安らぎに甘えていたのだ。 「俺は今が、一番良い」 無明がいて、白笶がいる。終わりなどないと信じている。だから、全力でふたりを守る。あの時の後悔を、二度と繰り返さない。ただそれだけだ。 それでも、彼と一緒にこの国を旅した、あの長い月日を忘れたことはない。思い出す記憶の欠片に、逢魔は何とも言えない表情で空を見上げる。 出逢ったあの日も、雲ひとつない、こんな澄んだ青空だった。
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柚月なぎ
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