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第1話

昔々、あるところに、砂漠の王様がおりました。 王様は大変な暴君で、国の村という村から美少女美少年を徴用してきてはこれを侍らせ、しかし、三日と経たずに飽いては、その者たちを処刑してしまうのでした。 王様の処刑は,、王さまの、美しいお顔に似合わず気まぐれで、それはそれはむごたらしいものでした。 ある者は、毒蛇と蠍の群れ成す穴へ放り込まれ、王様はその断末魔を肴に、毒めいた緑色のお酒を飲まれました。 ある者は、焼いた鉄棒の上を歩かされ、上手く渡りきれたなら許してやると仰せられました。しかし、途中で塗られた油に足を滑らせ、下で待ち構えていた炎に呑み込まれました。王様は、人間の焼けるさまを肴に、めらめらと燃えるような紅いお酒を飲まれました。 王様は、策謀渦巻く蟲毒のような王宮のみをご存知で、育ってこられました。でしたから、王様にとっては人間は信ずるものではなく利用するもの、そうして、苦しめて出し抜いてもてあそぶものだったのです。 ただ、こういった境遇でも明るく健やかに育つものもおりますから、王様のこの資質は、お育ち遊ばれた境遇のみにはあらざるものと、言わなければなりますまい。 こんな王様ですが、政治に長け、また、強い軍隊と奸智に長けた頭脳をお持ちでしたから、この悪癖さえなければよい王様とも讃えられた筈でした。 少しの犠牲で国が治まるのなら、と、民たちは王様に反乱を起こす気配もなく、王様は、好きなように好きなだけ、暴虐の限りを尽くしました。 さて、今宵の王様の夜伽の相手は、褐色の肌に銀の髪、蒼い瞳がりんりんと輝く、利発そうな少年でした。夜伽も終わり、飽いた王様が珍しく一思いに楽にしてやろう、と、少年の胸の上へ短刀を振り上げると、少年は臆する様子もなく、静かな声で、お願いがございます、と申したのです。 さすがの邪知暴虐の王様も、少年の、一種の気合のような迫に圧されて、一瞬、血を流すことをためらいました。 すると、少年は言うのでした。 「今日の夜伽の身に余る光栄を記念して、ひとつ寝物語をお聞かせいたします。どうか、私の命を奪われるのであれば、その後にしてくださいまし。」 そうしてわたくし、月が見ているその下で、不思議の物語の幕が開いたのでした。 昔々、まだ夜になれば人ならざるものがさまよっていた頃のお話です。 あるところに、吸血鬼がいました。 その吸血鬼は、美食のためならば、人間の命を奪うことをなんとも思っていませんでした。 彼は、両の手で数え切れないほどの村々を支配して、月に一人ずつ、その領地の中から、選りすぐりの美女を献上させていました。 月が満ちる頃、村々の中から一番美しい乙女が、吸血鬼に献上されました。月が完全に見えぬ頃には、その乙女も萎れた花のようにしなび、そして吸血鬼は次の満月にはまた、憂いも知らぬような年の美しい乙女を民草からさらっていくのでした。 また、吸血鬼は自らを領主と称し、影の民を遣わせて人々から税を搾り取りました。吸血鬼は税として取り上げた麦や作物を燃やし、その火に当たるのです。それが彼の永遠の若さを保つ秘訣でした。 ある時、その地に飢饉が訪れました。 村々は、税を取られ、子を取られ、貧苦にあえぎましだ。そうして不満が限界にまでたまったころ、一人の若者が、吸血鬼を退治に行くと申し出たのです。 彼は、次の生贄となる乙女の婚約者でした。苦労の末、村のはずれの魔女と契約を交わして、あるものと引き換えに、吸血鬼の弱点を知りました。 婚約者に化けた若者は、捧げられるふりをして、吸血鬼の不意を突き、吸血鬼を無力化し、村へ連れ帰ったのです。 若者は言いました 「みんな、聞いてくれ。俺は吸血鬼をついに捕らえた。魔女にこいつの”死”をやると約束して、こいつの弱点を聞きだした。そして、こいつを銀の鎖で縛ることで動けなくしたのだ。この鎖は、こいつの心臓部に刺した杭に絡めてある。決して、杭を抜いたり鎖を解かないでほしい。 銀を惜しみなく提供してくれた、みなのおかげで捕らえることが出来た。よって、今から、この吸血鬼を協力してくれた村すべての共有の財産としよう。」 それを聞いた村人は言いました。 「暴君がいなくなったのはありがたいが、それを財産とした所でどうしようもないだろう。村は飢饉で壊滅寸前だ。もう、みなで滅びるか、お前たち若者に食べ物をやって、年寄りは飢え死にするか、二つに一つしかないはずだ。」 若者は、声を張り上げて言いました。 「大丈夫、それならばこれを食べればいい。死なないのだから、いくらでも肉が取れるだろう。」 若者が指差していたのは、あの吸血鬼でした。 こうして吸血鬼は、四肢を切り落とされ、生えてきたらばまた切り落とされて、生きながらにして、自分が味わった乙女たちの死を、何回も何回もその身で味わわされました。 最初は、人間らしい血の通っていない者とはいえ、ほとんど人間と変わりないものの肉を食べることに抵抗していた一部の村人も、飢えには逆らえず食べてみたらば、それは、美食を重ねた肉でしたからとても美味しかったので、これは人間ではない、と思うことにしました。 そうなれば、人間は欲深いもので、飢饉が去ってからも日曜日だけは、その肉を味わい血を飲むことにしたのでした。 日曜日の朝、村々の中心にある教会で、礼拝が開かれます。 牧師の講和が終わり賛美歌を歌い終えると、村人たちはそわそわしだすのでした。 牧師が聖なる書物の一節一節を読み上げる神聖な雰囲気の中、後ろ手に縛られ、銀のメッキをした柱に縛り付けられた吸血鬼が、柱ごと運ばれて来るのでした。 吸血鬼は、捕まった最初の頃こそ、傲慢な態度で 「人間風情が、覚えておれ、我輩が再び力を手にした宵には、貴様らを串刺しにしてくれる」 などと言っておりましたが、だんだんと、変身も眷属を呼び出すことも出来ず、銀に触れている部分は焼け爛れ、その焼け爛れた肉が再生してまた焼け爛れ、その上、四肢の肉を削り取られ骨を砕き折られ、村人たちの飢えた目でじっとりと見つめられるうち、その心はすっかり折れてしまいました。 最初の頃は悪態をつきながら村人たちをねめつけていた吸血鬼も、今はただただ怯え、泣き叫んで神に助けを乞うているばかりです。 「いやだあああ!もう、やめてくれ、やめてください、痛いのは、嫌だ!…ッッそのような目で、豚を眺める目つきで、我輩を見るな!やめろ、クソッ、本来お前たちこそ喰らわれて当然の弱者、なのにぃッ!」 「神に祈りなさい」と、牧師が言います。吸血鬼は、言うことを聞かなければその手に握られた銀の十字架を口の中にねじ込まれることを知っているので、あわてて祈りの言葉を口にします。 「ッっ!・・・彼は醜く、威厳もなく、ただ一人のそばにいてくれる人もなく、死の丘を登る・・・しかし彼の命は永遠なのだ・・・磔の苦痛に、彼は問うた。・・・神よ、神よ、なぜこのような苦痛をわれに与えたもう・・」 そこまで吸血鬼が喋ったところで、牧師の持つ銀の鎖が、ヒュッッとうなり声を上げて、鞭代わりに吸血鬼を襲いました。 「祈れ、といったのに、聖なる書物の内容を語るとは・・・しかも前後が不正確ですね。やはり、お前には生きる資格はないようだ。神が、私たちの糧として、週末のささやかな楽しみとして、お前のような生き物を作られたのだ・・・」 牧師は呆れたように、しかし、どこか楽しそうにそう言い、 「さあ、この哀れな創造物を、頂きなさい。このようなものでも、私たちに遣わしてくださった神に感謝していただくのですよ。」と、村人たちを彼の前へ呼び寄せました。 「ヒッ・・・!いやだ、いやだ、やめろッ!」 吸血鬼の叫びもむなしく、村人たちは少しずつ、吸血鬼の肉をこそげ取ります。 なかには、わざと銀製のナイフを使っている村人もいるようで、吸血鬼は失禁しそうなほどに苦痛を感じましたが、そのような粗相をしないよう、彼の陰茎はきつく戒められているのでした。 「-----ッ!!!」 声にならない叫び声を上げて必死で身を捩る吸血鬼の横で、牧師が澄ました様子で経文を唱えます。 「彼の者の声は、聞く人の憂いを取り除き、また彼の者の姿は目にする者の心を喜ばしめる・・・・」 それはまるで、聖人のことではなく吸血鬼のことを指しているようでもありました。 村人たちは、飢饉で滅びる心配はなくとも、やはり貧しい生活をしていましたから、自分たちよりももっと悲痛な生活を強いられている吸血鬼を見ていると、溜飲が降りるのでした。 村人たちは次々に吸血鬼の肉を削いでいきます。中には、暖炉の火へ肉をあぶりに行かず、そのままその場で食べるものもおりました。 その嗜虐に満ち溢れた顔を見て、吸血鬼は己の何たるかを悟り、悔しさと恐怖で、思わず目から大粒の涙を流しました。 牧師は相変わらず、澄まして読経をしています。 「主は言われた、我が体もてこれを汝らがパンとし、わが血もてこれを汝らが葡萄酒とす、・・・」 村人たちがすっかり満足し、吸血鬼が痛みに耐え切れず失神した頃、牧師は最後の句を継ぎました。 「神が下された子羊の、その贄もてわれらが生活を贖い…ああ、皆さん、満足されましたか。では、これにて礼拝を終わりとしましょう。」 村人たちはぞろぞろと礼拝堂を出て行き、吸血鬼は今や難を逃れたかのように見えました。しかし、吸血鬼の受難は、これで終わりではなかったのです。 やがて夜がやってきました。すると、村の男たちが、静かに礼拝堂の隣、寝室風の小部屋へと集まってきました。 そうです。吸血鬼は、娼館のない村々で、食される日曜日と、清めて村人が食べられる状態にするためのその前日の夜以外は、性の捌け口に使われていたのです。 これには訳がありました。こういう風に、吸血鬼を惨めな状態に置かなくては、不死の力をやるぞなどと言う、吸血鬼の甘言に嵌って、彼の言うがままに拘束を解いてしまう人間が現れる恐れがあるためでした。死ねないとはどんなに恐ろしく、惨めな、恥ずかしいことか、それを、村人たちは覚えておくために、吸血鬼を性の玩具とすることに決めたのです。 今や吸血鬼は、何週目かの輪姦が終わり、銀の鎖に拘束されたままの格好で震えていました。その哀れな様子は、村の男たちの嗜虐心を更に煽ったのでした。 「背が高すぎて骨張ってはいるが、肌は滑らかで柔らかい。なかなかいい抱き心地だ。」 「さっきの声を、聞いたか?まるで女のように喘いでいた。”領主様”などとのたまってはいたが、所詮は人間でない化け物。・・」 「・・・無理やりされていると言うのに、感じ始めているのだよ。畜生にも劣る生き物・・・」 男たちは、口々に吸血鬼について語っていました。 「そういえば牧師様、例のものは出来ましたか。」 一人の村人の声に、牧師はにっこりと笑い、そして、服の裾から、銀で出来たペンチを取り出しました。 「やめろ・・・何を…」それを見ていた吸血鬼は、怯えた様子で首を振ります。 「口を開けさせろ。」と誰かが言い、吸血鬼は、無理やりに口を開けさせられました。拒否すると鼻を塞がれ、喘いで開けた口に、ペンチが突っ込まれました。 吸血鬼は死こそ奪われてはいませんでしたが、苦痛を感じる力を奪われてはいなかったのです。 そうして吸血鬼は、それまであまたの乙女の血を吸った犬歯を抜かれました。 「あ、あがッ!!!」 のみならず、他の歯もすべて抜き取られ、仕上げに他の歯もすべて抜かれて、焼き鏝を当てられて傷口を塞がれました。 「さて・・・楽しませてもらうか・・・」 吸血鬼は歯を失った口の中に、ひときわ大きな逸物を突っ込まれ、苦しさに目を白黒させました。 (べたべたする・・・ッ!・・・なぜ下賎な人間ごときの性器が我輩の高貴な口の中に・・・!本来、花も恥らう乙女の生き血のみを味わうために存在している我輩の口に、どうしてこんな生臭くひどい味のするものが入ってこなければいけないのだ・・・ッ・・・) 吸血鬼は舌で男根を押し返そうとしたり、歯を失った歯茎で噛み付いたりしましたが、それは却って男を喜ばせるだけでした。 「オラッ、なかなかいい喉まんこじゃねえかッ!・・・もっと奥で、しゃぶれっ!」 興奮してきた男は、いっそうひどく吸血鬼の口内を圧し進み、喉奥まで逸物をしゃぶらせます。それに釣られて、他の男たちも吸血鬼の口腔を犯してみたくなり、代わりに吸血鬼の後庭を犯します。 何度も何度も、串刺しに上下から穿たれ、犯され、揺さぶられ、ろくに洗っていないその男根から熱くてまずい精液を呑み込まされて、吸血鬼は頭がおかしくなりそうでした。 果たして1ヵ月後、…そこには、すっかり目を蕩けさせた吸血鬼が、相変わらず犬歯を抜かれて男たちに乱暴されていました。ただ、以前とは違い、吸血鬼は嬉しそうに懸命に男たちに奉仕し、足蹴にされ唾を吐きかけられ、ぶたれいたぶられても、まるで飼い主に媚びる犬のような態度で男たちに笑いかけます。 吸血鬼は銀の鎖に繋がれ、心臓の杭の痛みを感じながら眠る昼間より、男たちの体温を感じ、体の中に熱いその精液をぶちまけられる方がいくらかましだと思ってしまったのです。壊れないから、と言う理由で、男の拳を戯れに胎内へ埋め込まれても、吸血鬼はへらへらと笑っているだけなのでした。 そうしてその様子が、また男たちの薄暗い気持ちを掻き立てます。本来強いはずの男の姿をしたものが、哀れっぽく泣き、叫びながらも媚態と痴態を晒して自分たちのなすがままであるという事実が、男たちの支配欲を満たしたのです。 吸血鬼は人間そっくりにしゃべり、表情を作る知能を持ってすらいるのですから、そのような生き物を嬲るとき、村人たちは、まるで自分が神になったかのような快感をさえ得ました。 吸血鬼は、男たちに悲鳴の合間で語り掛けました。 「皆さん、お願いでございますッ・・・わたくしめの卑しい口を、皆様の男の証を清めるのにお使いくださいッッ!・・・わたくしめの口で皆様のちんかすを味わわせてくださいまし。」 おお、あわれ、吸血鬼は何度も何度も口腔を男根で犯されるうちに、その味のとりことなってしまったのでした。最初はいやいやなめさせられていたものが、いつの間にか体が慣れ、しまいには中毒的な嗜好をすら、形成させられてしまったのです。 もはや吸血鬼は、自由にしてやるといわれたところで、ここにとどまらせて欲しいと鳴きながら乞うことでしょう。 そうして吸血鬼は何代にも亘って、村人の肉便器として、また、家畜として利用され続けました。死を持たない彼は、どこかのひなびた村で、今も、・・・ 少年はそこまで語ると、口をつぐみました。 少年の物語に聞きほれていた王様は、しばしの沈黙の後言われました。 「なるほどのう。その吸血鬼は、美食にかまけるあまり、民の支持を失い、吐き気を催すようなものを喰らって暮らすことになってしまったのだな。」 「左様でございます。」 きらきらと明け方の空のような瞳が、王様を映して臆する様子もなく、まっすぐに輝いていました。 王様は思いました。 (・・・不思議な奴だ。・・・そうして、面白い奴だ。今までの奴隷どもとは何かが違う・・・まだ、生かす価値があるやも知れぬ。・・・) 王様は、少年に命じられました。 「その方、明日の夜もまた、夜伽に参れ。そして、余にまた不思議な話を聞かせるのだ、よいな。」 「承知致しました。」 と少年は言い残し、王様のお休みの邪魔にならぬよう、下がりました。 少年は、明日の夜はいったいどのような話をするのでしょうか。それとも、話の途中で飽いた王様が、少年をはかなくしてしまう方が先でしょうか。 わたくしは、明日の夜を恐ろしいような、待ち遠しいような気持ちになりながら眠りに付いたのでございます。

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