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第2話
昔々、あるところに、砂漠の王様がおりました。
王様は大変な暴君で、国の村という村から美少女美少年を徴用してきてはこれを侍らせ、しかし、三日と経たずに飽いては、その者たちを処刑してしまうのでした。
さて、今宵の王様の夜伽の相手は、褐色の肌に銀の髪、蒼い瞳がりんりんと輝く、利発そうな少年です。この少年は、昨夜も王様のお相手をさせられたのでした。
夜伽も終わり王様は、少年に昨夜と同じように寝物語をするよう命じました。
少年は王様に申し上げました。
「承知いたしました。王様がそのように望まれるのであれば、物語をいたしましょう。」
そうしてわたくし、月が見ているその下で、今夜も不思議の物語の幕が開いたのでした。
昔々、まだ海には人間の知らぬ者たちが泳ぎ回っていた頃のお話です。
あるところに、海賊がいました。
その海賊は、勇猛で知られていました。
彼は、最初こそ真面目な船乗りだったものの、今や七つの海を支配して、海賊仲間たちと、その日その日を楽しく暮らしておりました。
しかしある時、その船は難破しました。
海賊たちは、散り散りになり、海の藻屑と消え、またある者は柔らかい肌を岩礁に引き裂かれ、ある者は鮫に引き裂かれて息絶えました。
あの海賊は、幸か不幸か、気が付いた時には、岩のほかには何もなく、あたり一面海しか見えない岩礁に打ち上げられていました。
海賊は思いました。
「俺は、どうして無事に岩へ流れ着いているのだろう。…ひょっとしたら、この海域に出るという人魚の仕業か。」
海賊は、ぞっとしました。
この岩礁は、まるで、人間を海の中で生かしておくのには最適です。雨水が貯まるくぼみがあり、満潮になっても、何とか沈まないだけの高さがあります。
ご丁寧に、天候の悪い日には雨風凌げるような、洞窟のようなくぼみがあるのすら見えます。
つまり、まるで陸の水槽が、陸で海の生き物を飼うのにあつらえ向きであるように、この岩場は、海で陸の生き物が何とか生きるだけにはあつらえ向きにできているのです。
海賊は、あたりを見回しました。
人魚はいません。ただただ、嵐の後の、残酷なまでに明るい、灼熱の太陽が、岩礁のがらんとした表面を照らしているだけです。
やがて、夜になり、海賊が、張り詰めていた神経をほどいて眠りにつこうとした頃、物音がしました。
ぴちゃぴちゃと、水気のあるものが這っている音です。
海賊がはっと顔を上げると、目の前に、やはり人魚がぬらりと現れていました。
人魚の目は、深海に棲むものらしく、残忍な、感情のない、爬虫類のような眼をしていました。
人魚は、一匹ではありませんでした。何匹かがこちらに向かって手を伸ばしてくるのを見て、海賊は、思わず情けなく悲鳴を漏らしながら後じさりしました。
「いやだっ、…く、来るな…」
しかし、人魚たちはくすくすわらいながら、なおも海賊のほうへにじり寄ってきます。
海賊は、港町で見た見世物にされていた人魚を思い出しました。
一つ目の人間は人間の住む国では見世物ですが、もしも一つ目の人間ばかりが住む国に、人間が行けば、きっと捕まって見世物にされてしまうでしょう。それとまるで同じで、海の中では、海賊のほうが、哀れななぶりものであるように、海賊には思われました。
海賊は捕えられ、海の中へ突き落されました。人魚どもは海賊を海中で球のように投げ渡しあって遊びました。
海賊は、人魚の長い尾であっちこっちへ跳ね上げられて、たまったものではありません。
「ヒッ・・・!い、やめろッ!」
海賊は、思わず声を上げました。
見れば、人魚たちはくすくす笑いながら、なおも海賊を辱めようと、海賊の服を破るようにしてはぎとり始めました。見ればその下半身には長い馬のような陰茎がそそり立っておりました。
「嘘、うそだッ、そんなの、壊れるッ、!やめ、やめてくれ!」
必死の形相で抵抗する海賊に、人魚たちは面白そうに加虐を続けていきます。
ある者は腕を押さえつけ、またある者は足をつかんで広げさせ、…海賊はやがてぐったりとして、抵抗もままならなくなりました。
「ムリだ…そんなもん、入らない…死んじまう…」
うわごとのように呟く海賊ですが、自業自得です。人魚たちは、この海域で婦女に暴行を働く海賊たちを見て、この遊びを思いついたのですから、海賊自身が、この凌辱の結果を招いてしまっていたのです。
ことが終わり、海賊は、ぐったりとしていました。
この残虐な遊びは、人魚たちが飽きるまで続きました。
飽きられてしまってから、海賊は、考えました。
「昔俺は、飼っていた蜥蜴を無理に泳がして楽しんでみたり、弄り回したりして、しまいには、飽きて、餌をやらずに死なせてしまった。…あいつら人魚にとって、俺は生きた玩具でしかないらしい。…かつての俺にとっての蜥蜴と同じように…俺は、何の抵抗もできず、さんざんいたぶられた挙句、ここで奴らに忘れ去られて死んでいくのだ…」
もう、以前のように犬のように芸をさせられるのと引き換えに、わずかばかりの食べ物を与えに人魚たちが来てくれることもなく、海賊は痩せさらばえて死んでいくばかりです。
可哀想などと手放しで同情もできませぬが、過酷で悲惨な運命が、この海賊に待っていることは、もはや間違いありませんでした。
少年はそこまで語ると、口をつぐみました。
少年の物語の余韻に、しんとしていた王様は、しばしの沈黙の後言われました。
「なるほどのう。その海賊は、他者への思いを尽くすことを怠り、自らが海底の情なき者たちの怠惰によって滅ぼされたのか。」
「左様でございましょう。」
少年は、静かにうつむいたまま言いました。
王様は、少年に命じられました。
「明日の夜もまた、夜伽に参るがいい。そして、余にまた不思議な話を聞かせるのだ、よいな。」
「承知致しました。」
と少年は言い残し、王様のお休みの邪魔にならぬよう、下がりました。
少年は、明日の夜はいったいどのような話をするのでしょうか
わたくしもまた、明日の夜になされる話を待ち遠しいような、恐ろしいような気持ちになりながら、眠いに着いたのでございます。
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