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第1話
4月を迎え、大都会・上海 にも春らしさがやってきた。意外に市内各地にある公園の花は咲き乱れ、女性たちのファッションも華やぎ、人々も気分も明るくなる。
そんな気持ちの良い4月のとある午後。先月の煜瑾 の誕生日パーティーで、今年も大活躍をしてくれた親友にお礼がしたいと、唐煜瑾 と包文維 に夕食を誘われた羽小敏 は、観光地であり、ショッピングモールでもある「新天地」で待ち合わせをした。
ここを選んだのは、煜瑾が今日はこの近くにある、兄である唐煜瓔 のオフィスに用があったためで、暇だった小敏も煜瑾に付き合って唐煜瓔に挨拶をしてきた。
高校時代から、なぜか唐煜瓔は、羽小敏がお気に入りで、他の友人たちに比べても何かと親切にされた。
煜瑾の用事が済むのを待つ間、この後夕食に行くのだと何度言っても、お茶やお菓子で次々にもてなされ、食べられないと小敏が断ると、お土産だと言って結構な量を持たされた。
「お兄さま、小敏のことが大好きだから」
他意なくそう言って煜瑾は微笑むが、小敏は少し複雑な気持ちがする。
溺愛する弟の煜瑾の友人としての「お気に入り」にしては少し度が過ぎるような気がする。
かと言って、もっと個人的な見返りを求められるかというと、そうでもない。
では、見返りを求めない愛情を、なぜ小敏に抱いているのか?そこが全く見当もつかないのだ。
とは言うものの、最近では小敏も難しく考えないことにして、素直に甘えることにしている。
「煜瑾を文維にとられたから、代わりが欲しいのかな」
冗談めかしてそう言うと、煜瑾は恥ずかしそうに頬を染める。
(相変わらずカワイイな~。文維のおかげで、随分と大人っぽくなった気もしたけど、煜瑾はやっぱり煜瑾だなあ)
小敏は、清純な親友の美貌を堪能しながら、そんなことを考えていた。
一方の煜瑾は煜瑾で、小敏の様子に些細な違和感を覚えた。
(なんだか…、いつもの小敏と違う気がする…?)
おっとりとした「深窓の王子」には、それが何かはハッキリしなかったが、小敏が少し落ち着いて、大人っぽく感じた。
「ねえ、小敏?聞いてもいいですか?」
「何を?煜瑾に聞かれて困る事なんてないよ」
新天地の北側にあるスターバックスのオープンテラス席で、熱いキャラメルマキアートを飲みながら小敏は言った。煜瑾の前にも同じものがある。
「最近、何かありましたか?なんだか…いつもと違います」
いつも、明るく、素直なキャラを装っている小敏だが、最近の親友がそれだけでは無い何かを抱えていることを、繊細な煜瑾は感じ取っている。
けれど、今日の小敏は、本当に内面から輝くように明るく、幸せそうに見えた。
「分かる?」
小敏自身、ウキウキした様子で、煜瑾の向かいの席から身を乗り出した。
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