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第1話『物語の始まり』

「ソラ…」不意に声がし、ソラは振り向く。 「あぁ、ロイさん。どうでした? お目当ての一枚は撮れましたか?」「バッチリだよ。粘った甲斐あった」ロイは嬉しそうに、カメラの画面を見せる。そこには、美しい夕焼けが写っていた。 「綺麗……」 「だろう? これを見たくて、粘ったんだ」カメラの画面を見つめながらロイは、自慢げに笑う。 「それはそうと、ソラは今日方策は有ったのか?大会に出るんだろ?」何と無しに聞かれた言葉に対し、一瞬ソラはたじろぐが、直ぐに笑顔を作り、ロイに答える。 「出ません」ソラは、はっきりと答える。それに対しロイは驚きを隠せずにいた。 「え……どうしてだ?」ソラは少し微笑むと言葉を続けた。 「力がないものが力のあるものに勝とうなんて、身の程知らずだと思って」ソラは、夕焼けを見ながらそう呟く。 「僕は、写真を撮るのが好きなだけで、誰かと勝負をしたい訳げは無いので…」 「そうか……でも、俺はまたお前と勝負したかったんだけどな…」するとロイの言葉にソラは微笑む。 「それは、僕も同じですよ。次があれば、その時は正々堂々と勝負しましょう」 ----夕焼け空もだんだん暗くなってゆき、夜が訪れ始める。 「さてと、そろそろ帰るか。ソラはどうするんだ?」 「僕はもう少しここに居ます」 「分かった。じゃあな!」そう言うとロイは、先に帰って行った。去りゆく彼の後ろを見送り。ソラは再びカメラのレンズを夕焼け空に向けた。 ---翌日、入学会場には多くの人が集まっていた。新入生者は勿論の事、先輩方もおり、会場は既に熱気に溢れていた。「さてと、僕は何処に座ろうかな」ソラはキョロキョロと見渡すが、何処も人で溢れかえっており。座る所が見つからない。そんな時、後ろから声がした。 「おーい! こっち空いてるぞー!」声の方に振り向くとそこにはロイの姿があった。彼は手を振りながら、自分の隣の席を指していた。ソラは言われるままにその席に座る事にした。すると、直ぐに会場の照明が消え始める。壇上には校長が上がり始めた。 「皆さんこんにちは」校長の声はスピーカーを通して会場中に響き渡る。 「今年も、多くの新入生が入学してくれました。皆さん、入学おめでとうございます」校長はそう言うと拍手をする。それに合わせて会場の皆も一斉に拍手をする。その後も校長は様々な話をしていく。 「さて、皆さんの中には、既に知っている方も居ると思いますが、この学校では大会等も行っております。勿論、強制ではありませんが、もし興味があれば参加してみて下さい」すると会場の皆からは歓声が上がる。 「それでは最後になりますが、皆さんのご入学を心からお祝い申し上げます」そう言うと校長は壇上から降りて行った。それと同時に照明が再び点いた。それから暫くして入学式が終わりを迎えた。新入生達はゾロゾロと会場を後に、ソラも会場から出ようとするが、隣から不意に声をかけられた。 「おい、待てよソラ」ロイが話しかけてきた。 「はい? 何ですか?」ソラは立ち止まり、振り向く。するとロイは一枚の紙を差し出す。そこにはこう書かれていた。『大会参加申込書』と書かれていた。(僕は、一瞬で嫌な予感がしたのは言う迄も無いだろう…) ---翌日、ソラは学校内の掲示板に貼られていたチラシを見ていた。そのチラシには大きく『第一回!学生写真コンテスト』と書かれている。 「コレが昨日ロイの言ってたヤツか…」ソラはそのチラシを手に取り眺める。「一応、見に行ってみるかな?」ソラはそう呟くと、その場を後にした。そして、大会当日。会場には多くの人が集まっているがそのほとんどが新入生である。そんな中でソラは受付の所に向かうとそこにはロイの姿があった。 「お! やっと来たな!」ロイが笑顔で出迎える。「こんにちは」ソラは軽く会釈をする。するとロイは一枚の紙を差し出す。それは昨日見たあのチラシだった。「これに参加するのか?」 「いえ、今回は見るだけにしとくよ」 ソラがそう言うと、ロイは少し残念そうな表情を浮かべる。 「そうか、出来ればまた勝負したかったんだけどな」ロイはそう言いながら少し落ち込む。すると、後方から誰かの視線を感じたソラは振り向くとそこにはカメラを持った生徒が居た。(誰…?)その生徒はこちらに向かって来ると声をかけてきた。 「良かったら写真撮らせてくれないかな?」どうやら彼はカメラマンらしい。それを聞いてソラは少し考える素振りをするが直ぐに笑顔で了承する事にした。「僕なんかで良ければどうぞ」すると彼は嬉しそうに笑うと同時に礼を言ってきた。 ---その後、大会は無事に終わりを迎えた。参加者全員が、それぞれの作品を持ち寄り審査が行われた。その結果、最優秀賞に選ばれたのはロイであった。「凄いじゃないか!」ソラがそう言うと照れ臭そうに頭をかくと笑顔で答える。「へへっ! まぁな!」それから暫くして二人は別れた。その日の夜の事である。 ソラはいつもの様にカメラを持って外へ出る。宛も無く、ただただ歩くだけの散歩であった。そんな時、ソラはふと立ち止まると空を見上げた。夜空には満点の星々が輝いていた。その美しさに思わず見とれていると不意に後ろから声をかけられた。振り向くとそこには昼間に会ったカメラマンの姿があった。 「あれ? 君は確か昼間の写真撮ってた人だよね?」彼と出会った際、ネクタイに緑色のラインが入っており、可能じて新入生だと確認出来たが今の彼を見ると普段着の為か、自分より数倍大人ぽく見えた。 「あぁ! 覚えててくれたんですね!」彼は嬉しそうに笑うとこちらに近づいてくる。「それで、こんな所でどうしたんですか?」そう言われるとソラは少し戸惑いながらも答える。 「いえ別に……ただ星を見てただけです」それを聞いた彼は更に嬉しそうな表情で語り始めた。 「やっぱり写真がお好きなんですね」チラリとソラの手にあるカメラに視線を向けつつ、彼は笑う。「えぇ、まぁ」ソラはその目線に気付いたのか気まずそうに顔を逸らす。すると突然、彼がこんな事を言い出した。 「ねぇ! 貴方の名前教えてくれませんか?」その申し出に一瞬戸惑うも直ぐに答えた。 「僕はソラ……です」それを聞いた瞬間、彼は花が咲いたかのような表情になると再び話し出す。 「ソラ……。良い響きですね。俺、アベルって言います!」二人は握手を交わすと、そのまま別れた。

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