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第2話『トモダチ?』

それからと言うものソラは、よくアベルと一緒に居る事が多くなった。彼はとても明るい性格の持ち主で、誰からも好かれるような人物であった為、自然と会話も増えて行ったのだ。そんなある日の事だった。 珍しくアベルともロイとも別行動を取っていたソラが一人、空を見上げていた時、ふと背後から声をかけられた。 「ソラさん?」振り向くとそこには学校一可愛いと言われる少女が立っていた。 「あぁ、えっと君は確か同じクラスの……」名前は覚えていないが、顔は覚えている。彼女はソラが一人である事を知ると、嬉しそうに近寄ってきた。 「ソラさん、お暇なら私とお話ししませんか?」そう言って彼女は自分の隣へ座るよう促してきたので、ソラは素直にそれに従う事にした。 「えっと、それで何を話そうか?」単当直にそう聞くと彼女は少し考えた後こう答えた。 「ソラさんは好きな人とか居るんですか?」突然の質問に一瞬戸惑ったものの、すぐに答える事が出来た。 「うーん……今は居ないかな」そう言うと何故か彼女の表情が少し暗くなった気がしたが、気のせいだろうと特に気にせず会話を続ける事にした。 「そうなんですか、実は私最近好きな人が出来たんです」そう言って彼女は恥ずかしそうに頬を掻いた。(好きな人…。学校一可愛いと称されている彼女にもこう言う反応が出来るんだ…)と感心する。 「へぇーそうなんだ、どんな人なの?」興味本位で聞いてみると、彼女は嬉しそうに語り始めた。 どうやら相手は年下の男子生徒らしく、容姿端麗で成績優秀スポーツ万能らしい。そして何より優しい性格をしているという事だった。それを聞いたソラは思わず笑ってしまった。何故なら目の前にいる少女はとても可愛らしく魅力的な子だからだ。きっとこの子ならどんな相手でも落とせるだろうと思ったからだ。 「でもね、私には一つ悩みがあるんです」深刻そうな顔でそう呟く彼女に、ソラは優しく問いかけた。 「どんな悩みかな?」すると彼女は少し躊躇った後こう答えた。「実はその男の子、私の事好きじゃないかもしれないんです」 「え?そうなの?」驚いて聞き返すと彼女は小さく頷いた。 「はい、目が合ってもその度に視線を逸らされちゃうし……それに話しかけても素っ気ない態度を取られる事が多いし」そう言って彼女は悲しそうな顔をした。(こんな可愛い子でも恋愛で悩む事があるんだなぁ)そんな事を考えながらも「それは辛いね……」ソラは同情するようにそう呟くと、彼女は少し笑顔になってこう言った。 「でも大丈夫です!私は諦めないッ!」彼女の強い意志を感じ取り、ソラは「応援してるね」と答えた。すると彼女は嬉しそうに微笑むと「ありがとう!」と言って去っていった。その後姿が見えなくなった所でソラは小さくため息をついた。(恋かぁ……)自分には縁の無い話だと思いつつも少しだけ羨ましいと感じたりもしたのだった。 それから数日後の事だった。今日もまたいつものようにアベルと一緒に帰ることになったのだが、途中で彼から思わぬ提案を受けたのだ。それは来週の日曜日に一緒に映画を見に行かないかと言うものだった。突然の誘いに戸惑いを隠せなかったが、特に予定も無かった為承諾した。しかし一つだけ気になる事があった。それは何故急に誘ってきたのかと言うことである。今までこんな事は無かったので不思議に思っていると、彼が説明してくれた。どうやらクラスの男子達が話していた話題の中に映画の話があったようで、それを聞き付けた彼がソラに見せたいと思ったのだそうだ。そういう理由なら納得だと納得した後、待ち合わせ場所を決めてその日は別れたのであった。 そして迎えた日曜日当日、待ち合わせの時間よりもかなり早く着いてしまったソラは駅前でスマホを弄りながら時間を潰していた。すると不意に後ろから声をかけられた。振り返るとそこには私服姿のアベルが立っていた。(彼の普段着を見るのはコレで二度目だな…)彼はこちらに気付くなり嬉しそうな表情を浮かべて手を振ってくる。そんな彼を見てソラは少しだけ気恥ずかしくなったが、平静を装って手を振り返すことにした。そうして合流した後は予定通り映画を見ることになったのだが、そこでソラはあることに気が付いたのである。それは周りの視線だ。男性からは嫉妬と羨望が入り交じったような視線を、女性からは好奇の視線を浴びせられているように感じるのだ。その理由はすぐにわかった。というのも隣にいる彼のせいだったからだ。 そう、彼があまりにも格好良いせいである。(イケメンって存在そのものが罪…みたいな処があるからな…)ソラは改めて彼の容姿の良さを認識させられたと同時に、何故自分が誘われたのかという謎も解けた気がしたのである。つまり彼は自分の事を友人として見ており異性としては意識していないのだろうと思ったのだ。(気楽でいい関係…。コレが友人と言う者か…)そう思うと少しだけ一緒にいられる時間が増えた事が素直に嬉しかった。 その後映画を見終えた後、近くのカフェに入り休憩することにしたのだがそこでまた一つ問題が発生したのだ。というのも先程からアベルがずっとこちらを見てくるからである。最初はただ単に見ているだけなのかと思ったが、どうも違うらしい。というのも目が合う度に慌てて視線を逸らしているからだ。「僕の顔に、何か付いてる?」不思議に思い、そう尋ねるが彼は慌てた様子で否定してきた。 「いや、そういう訳じゃないんだけど……」「けど?」聞き返すと彼は少し躊躇った後口を開いた。 「その……今日のソラ、凄く綺麗だからさ」そう言って照れたように笑う彼に、ソラは首を傾げた。 「僕が?いやいや、それは君の方でしょ?だってさっきの映画館でも注目の的だったよね」そう訪ねるとアベルは急に目を丸くし、全否定した。 「あれは全部ソラに対しての好意の視線でしょ⁉女もそうだけど、男の視線なんて特に!」そう言われてソラは再度首を傾げた。 「違うの?」そう聞き返すと彼はため息をついた後説明してくれた。どうやら先程の映画館でもそうだったらしいのだが、ソラが席に着いた途端周りからの視線が集中したらしい。それも男女問わずである。特には男性客から熱い視線を送られている事に気付き、アベルは気が気でなかったそうだ。(そんな大袈裟な……)そう思ったが口には出さずに黙っておく事にした。そんな他愛もない話しながら過ごす時間はとても充実しており、楽しいものだった。(今まで生きてた中で写真を撮る以外に楽しいと思った事、無かったのに…)そう思いながらふと顔を上げると何故かアベルがこちらをじっと見つめていた。 「ん?どうかした?」そう聞くと彼は少し間を置いてから答えた。 「いや、ソラの笑ってるところ撮りたいなぁと思って」そう言って彼はスマホを取り出した。「え?」 「ほら、こっち向いて?」言われるがままに視線を向けるとシャッターを切る音がした。それから彼は撮った写真を確認して満足げに頷いた後、またこちらへ向き直った。 「ありがとう!可愛い!」そう言って笑う彼の笑顔の方がよっぽど可愛かったが敢えて言わないでおくことにした。代わりに「どういたしまして」と言って笑いかけた。その後二人は店を出て帰路についたのだった。 その夜、夢を見た。懐かしい…とても懐かしい夢だった。まだ幼かった頃の記憶だ。家族皆でピクニックに行った時の古い記憶だ。 『ねぇ、お母さん』『どうしたの?』 『どうして僕の目はみんなと違うの?』 そう聞くと母は少し困った顔をしながら答えてくれた。 『それはね、ソラの目はとても特別だからよ』 『とくべつ?』 『そうよ。あなたの目は特別な目だから…。でも母さんはソラの目、好きよ』そう言って母は優しく頭を撫でてくれた。その感触が心地よくて思わず目を細めた。すると母も微笑んでくれた。それが嬉しくてもっと甘えたくなって抱きついた。そんな僕を母は優しく包み込んでくれた。それがとても心地よくてずっとこうしていたいと思った。だが、そこで目が覚めた。 「夢か……」そう呟きつつ額の汗を拭った。時計を見るとまだ朝方の4時だった。起きるには余りにも早すぎたが、もう一度寝る気にもなれなかったのでそのまま起きてシャワーを浴びることにした。脱衣所で服を脱ぎ、浴室へと足を踏み入れると温かい湯気が立ち込めていた。それを肺いっぱいに吸い込みつつ身体を洗い始める。そして一通り洗い終わったところでシャワーを止めて浴室から出た。バスタオルで全身の水気を取り除きつつ鏡に映る自分の姿を見つめた。そこには見慣れた自分の姿があった。先程まで見ていた夢のせいで、懐かしい記憶を思い出してしまったのだろうとそう思った。しかしそれと同時に何か大切なことを忘れているようなそんな気がしたのだ。それが何なのか思い出せなかったけれど……。

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