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第26話 ゆめのなかのまおうさま。

 「………………ん、」  のどがかわいた……。  自分の身体が鉛の様に重い。  目を開けて身体を起こして、喉の渇きを潤わせたいのに、肝心の瞼はふるりと震えるだけで開かない。  おきなきゃ……。  思考も霞がかかったようにハッキリしなくて、やがで暗雲に覆われるかのように霞んでいく。  「ーーレイル、起きたのか?」  もう一度、眠りという名の沼に沈もうとしていた意識は、ゆったりと低く響く声に反応してもう一度浮上してきた。  「まだ動けまい。どうした、喉でも乾いたか?」  ゴツゴツした指が頬を掠める様に撫でる。  その優しい触れ方、耳に心地良い声……。  しってる……、これ、まおうさま、だ……。  最後の意識のなかで、戻りたいと強く願った魔界。  本当に戻りたかったんだ。  魔界の……、魔王様のもとへ。  「ーーーーっぅ……」  これは、ゆめ、かな?  ゆめでもいいから、まおうさまにあいたいなぁ……。  彼をひと目見たくて頑張るけど、やっぱり瞼は開かない。  僕が反応しないから、すっと魔王様の指は離れてしまった。  ーーさみしい………。  たかが夢の出来事なのに、馬鹿馬鹿しいくらいに気持ちが沈む。  ……と、グイッと力強い腕に肩を抱かれ、上半身が持ち上げられた。  全く力は入らなくて、くったりと魔王様の胸元に凭れ掛かる。  魔王様のガッチリした身体は、僕の重さがかかってもびくともしない。  夢の中でも安心できる感じに、僕はほっと息をついた。  「水だ。飲めるか?」  ひんやりと冷たい感触が唇に当たる。  あれ……?ゆめなのに、かんかくがある?  どうやら吸い飲みみたいだけど、口も喉もカラカラに干からびていて、流れ込んだ水が上手く通らない。  「………ぐっ…」  飲み込めなくて口角から水が溢れ出てしまった。  ああ、せっかくまおうさまが、のませてくれたのに……。  残念に思っていると、すぐ近くで「ふぅ……」と微かにため息が聞こえた。  「レイル、ほら、口を開けて……」  顎に指が掛かる。  優しくそっと力が籠り、僕の唇は僅かに開いた。その唇に、温かく柔らかなモノが重なる。  ーーん、なに?  疑問が湧くけれど、それよりも流れ込んできた水に気が向く。  さっきの水は冷たくて、乾燥しきった粘膜には痛いくらいだったけど。  今、流れ込んだ水は少しぬるくて、(やわ)く口腔を潤してくる。  本当に喉が渇いていた僕は、ごくんと喉を鳴らしてその水を飲み込んでしまった。  のみこめて、しまった……。  え?ゆめ、なのにのめた?え……?  「…………上手」  ふっと笑う気配と濡れた唇を拭ってくれる感触。  え?え?え??まって。ゆめ、じゃないの?  まおうさま、そこにいる、の?  魔王様に会いたくて、会いたくて。  僕は力を振り絞り、頑張って重い瞼を上げた。霞んで焦点の合わない視界に、黒と金赤の色が飛び込んでくる。  「……ま、おう……さま……?」  「どうした?」  重い瞼を宥めつつゆっくりと瞬きを繰り返すと、視界が少しずつクリアになってくる。  そして、そこには会いたくて仕方なかった人が愛しげに目を細めている姿があった。  「ま……おうさま……」  辿々しく繰り返す僕に、魔王様は優しく笑みを深めてくれた。  「俺はここにいる。オマエの側にいるから、心配するな……」  囁くように告げる声は、労るようでもあり、甘い睦言のようでもあり、意識のハッキリしない僕の耳にやんわりと染み込んでいく。  「……ん」  僕は小さく頷いた。  まおうさまがいたら、ぼくは、さみしくない……。  安心したせいか、抗いようがないくらい重くなってしまった瞼が再び閉じていく。  そんな僕の髪を何度も何度も優しく梳きながら、魔王様はゆったりと囁いた。    「可愛いレイル。今は何も気にせず、しっかりと身体を休めていろ」  ちゅっと、額に口付けたられた感触がある。  「俺はオマエを手に入れると決めた。俺は決めた事は、絶対に諦めない。グズグズに甘やかして、容赦なく追い詰めて、俺から離れられなくしてやるから覚悟しておけ」  そう囁いた唇は、誓うようにもう一度僕の唇に重なったのだった。

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