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第57話 本の秘密(前編)

 魔王様に担がれるようにして魔界に戻ると、真っ黒さん達が両手を挙げて凄く歓迎してくれた。  真っ黒さんって真っ黒だから表情も何もないんだけど、どう見ても泣いてる様子の真っ黒さんもいる。  一体何があったんだろうなぁと、ラニットに抱き上げられたまま後方の景色と化していく彼らを見ていると、ベレトとアスモデウスが出迎えてくれた。  『おっかえりー!もっと遅くなるのかと思ったけど、早かったね』  「プルソンとヴィネはもう人間界に向かったわよぉ。あぁん、折角無垢な人間を快楽調教する機会なのにぃ。アタシに命じてくれたら良かったのになぁ」  ぶうぶうと文句を垂れるアスモデウスをジロリと見て、ラニットはそのまま足を進めた。  何処に向かっているんだろう?  僕の部屋ではなさそうだけど……。  担がれたままだから周りが見難いけど、多分そう。  『待って待って、ラニット!プルソンから伝言預かってるよー!』  慌てた様子でベレトがラニットを必死に止める。ラニットは前方に立ち塞がるベレトを見て不愉快そうに顔を顰めた。  「手短に言え。何だ」  『も~、そーいうトコだよ、プルソンが心配したの。じゃあ伝えるよ』  ラニットの顰め顔に、ベレトも嫌そうな顔になりながら可愛い肉球をスイっと差し出した。  キュルっと小さな音を立てて魔力が渦となり集まる。じっと見つめている間に魔力は鏡のような四角い板状になって、そこにプルソンの映像が浮き上がってきた。  『ラニット、レイル、先ずはお帰りなさい。色々大変だったでしょう?』  にこやかに微笑んでいる姿に、僕はちょっとだけ擽ったい気持ちになった。  だって誰かに「お帰り」って言ってもらうの、生家を放逐されてから初めてだったんだもの。  ちゃんと映像を見たくて、ラニットの肩をテシテシ叩いて降ろすようにお願いしてみる。するとラニットはすっごく嫌そうに眉間の皺を深めて僕を見た後、何故かお姫様抱っこへと抱き方を変えた。  『特にレイル、怪我などありませんか?審判を下すのは元より、事後処理でも随分疲れてしまったのではないでしょうか?』  その言葉にハッとなったラニットはまじまじと僕の顔を見つめて、盛大なため息を落す。  どうしたんだろう?  『ラニット、彼は貴方みたいな体力バカではないのですから、直ぐに寝室に閉じこもろうなんて考えないでください。まずは一度落ち着いて、お茶でも飲んで体を休めて。お楽しみはそれからですよ』  お楽しみ?と首を傾げている間にプルソンの映像は消え、ニヤニヤ笑うベレトとアスモデウスの姿だけがそこに残った。  「っていう事で、ちょーっとアタシ達とお茶でもして休憩しましょ。ね、ラニット?」  確かに物資の調整を終えた後から疲労を感じている。お茶が貰えるなら嬉しいけどな、と思っているとラニットは一瞬考え二人に対して顎をしゃくった。  「客間に行くぞ」  スタスタと歩き始めるラニットに、二人は互いに顔を見合わせ肩を竦めてみせると一緒に歩き始めた。  そんな二人に、僕は気になったことを聞いてみる。  「あのー……」  「なぁに、レイルちゃん?」  すかさずアスモデウスが反応する。  「さっき真っ黒さん達が出迎えてくれたんですけと、何か凄く喜んでくれてて……。何かあったんですか?」  「ああ……」  『あー、ね』  苦笑いを洩らす二人に、何となく嫌な予感しかしない。  「レイルちゃんが人間界に連れ去られて、ラニットが魔王上(ここ)で大暴れしちゃったのよぉ~。その後も何度か暴れまくってたから、あの子達の仕事が増えちゃってね。片付けが相当大変だったみたいねぇ」  「……暴れたんですか?」  思わずラニットに目を向ける。  彼は渋い顔のまま何も答えず、辿り着いた客間の扉を開けさせ中に入るとサッサとソファに腰を下ろした。  当然のように僕は彼の膝の上。もう、好きにしてください。

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