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07.秘匿のモフリスト

「私の名は六花(りっか)だ」 「リカさん」 「えっ?」  妖狐さんの目が点になる。なっ、何で? 「あぁ! 六花さんですね! すみませ――」 「いいや! リカでいい! リカで頼むよ!」 「さっ、流石に呼び捨ては……」 「じゃあ、リカさんで!」 「ああ……はい……」 「~♪ リカさん、リカさん♪」  めっちゃ喜んでる。鼻歌まで歌っちゃってるし。訳分かんないけど……まぁ、いいか。 「ん?」  リカさんの後ろで何かが揺れてる。あれは髪の毛か? いや、髪にしては塊感が強いような……!? 尻尾だ。銀色のふっくらとした尻尾が右に左に揺れている……!!! 「ふほぉ~~っ♡♡」  もふもふって、こんなにも心(くすぐ)るものだったのか!? しっ、知らなかった。思えば俺の前世(じんせい)はもふもふとは無縁だった。実家はペットNGなマンション。親戚も、友達も飼ってなかったし。ああ゛っ!!! 今更後悔したって仕方がない。今世だ。今世で思いっきり楽しもう。まずは手始めに……。 「…………」  リカさんの尻尾に目を向ける。じっとりと舐め回すように見つめて……っ!!? いやいやいやっ!!! ダメだ! ダメだ!! ダメだ!!! 冷静になれ。そんなんセクハラと同義だろ。失礼にも程が……。 「…………」  目が離せない。どうしても目で追ってしまう。リカさんのふわふわもふもふな尻尾を。果たして俺は、自分のこの果てしない欲望に抗うことが出来るのだろうか? 「次は君の番だね」 「っ!」 「君の名前は?」  背中がぴんっと伸びる。切り替えてけ、俺。 「仲里(なかざと) 優太(ゆうた)です!」 「仲里は家名かな?」 「はい!」 「じゃあ、優太で。改めてよろしくね」 「はい! こちらこそ!」  顔がゆるゆるになってく。我ながら浮かれまくってんな。 「さて、それじゃ行こうか」 「っ!」  いよいよか。里の妖さん達は俺を受け入れてくれるかな? 「……あ」  待てよ。他の妖さん達も……その……吸うのかな? 俺のおっぱいは『みんなのおっぱい』になる? 『次はワシじゃ~』 『おう、ガキぃ! 足んねぞ! もっと出せや!!』 『やっ! もう……無理……っ』  次から次へと妖さん達が押し寄せてくる。吸われまくった乳首は真っ赤に。その周囲には無数のキスマークが付いていて。 「うう゛……っ」  うっ、受け入れろ! それが俺の役目。俺の仕事なんだから!!! 「優太、私の手を取って」 「はっ……はい……」 「?」  言われるままリカさんの手を取った。白くて綺麗だけど、俺のよりも一回り以上大きい。っ!? よく見たら手だけじゃない。身長もだ。俺が172だから……下手したら2メートルあるかも。おまけにマッチョときたもんだ。お胸も広いし、前腕もガッチリしてる。もやしな俺とは大違いだ。羨ましさが過ぎて泣けてくる。 「開界」  リカさんが呪文(?)を口にした直後、白い光が広がり出した。 「っ!」  フラッシュバックする。死んだ時の記憶が。見上げるほど大きなトラックが俺の目の前に迫ってきて。 「大丈夫。何も恐れることはないよ」 「リカ……さん……?」  微笑みかけてくれる。包み込むようにそっと優しく。 「あっ……」  涙が出てきた。ほっとしたんだろう。ああ……俺、やっていけるかも。これから先も。リカさんと一緒なら。 「ようこそ。歓迎するよ」  森が消えて、新しい景色が広がっていく。俺の新しい人生が今、始まる。

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