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06.芽吹き(☆)
「君……」
妖狐さんの表情が沈んでいく。
まさか同情してくれてるのか?
『神の仕業か。まったく腹立たしい限りだね』
そうだ。妖狐さんは怒ってくれた。
神様相手に僅かも臆することなく。
この人も自分を持ってる。
優しくて、眩しい人だ。
だから、ハブられてるんだろうな。
もしかしたら、御手洗と同じ思いをしてきているのかも。
つまらない嫉妬から善意を踏み躙られたり、自分を曲げるように強要されたりして……。
赦せない。そんなの絶対に赦しちゃダメだ。
「妖狐さんは俺が守る」
「……君が、私を……?」
やべ。口に出てたか。はっ、恥ずかしい!
妖狐さん、めっちゃドン引いてる……いや、驚いてる?
何でそんな顔――あっ。そうか! そうだよな。
妖狐さんは神クラスの実力者。助けなんて必要ない。
守られるのはむしろ俺の方だろ。現にさっきだって。
「ふふっ、いつぶりだろう? 『守りたい』なんて言ってもらえたのは」
「でしょうね!! 失礼致しました!!!」
「ありがとう。凄く嬉しいよ」
やんわりとフラれた気分だ。泣きたい。
「邪魔してすみませんでした。続きを――」
「いや、でも……」
遠慮してる。俺が泣いたりしたからだ。
「お願いします。もう一度やらせてください。妖狐さんの力になりたいんです」
「…………ごめんね。ありがとう」
良かった。思いが通じたみたいだ。
妖狐さんが顔を近付けてくる。
俺は反射的に全身にぐっと力を込めた。
「あとでちゃんと自己紹介しようね」
「っ! ぜっ、ぜひ! ――あっ!」
再開した。
力が抜けていく。頭の奥がじ~んと痺れて。来た。あの感覚だ。
「~~っ」
怖くない。怖くない。
相手は妖狐さんだ。
大丈夫。受け入れろ。
「んっ、あァ……♡ ぁん♡ ~~っ、ぁ……♡♡」
気持ちいい。声、止まんない。
~~っ、もっと吸って。もっと。もっと。
「妖狐、さん……っ」
両腕を伸ばして、妖狐さんを抱き締める。
髪に顔を埋めると花の香りがした。
それに、ほんのり汗のにおいも。
だけど、全然イヤじゃない。むしろ興奮して。
「あっ♡ 妖狐、さん……♡♡♡」
「ありがとう。もう十分だ」
「あっ♡♡ ………えっ? あっ、はい………………」
温度差がエグ過ぎる。居た堪れない。
………………ってか、今の何!?
もっと吸ってだの、嗅ぎたいだの。
紛うことなき変態じゃねえか!! それも超が付くレベルの!!!
「うぅ……っ」
ようは、妖力供給係=天職ってわけか。
喜んでいいのやら、悲しんでいいのやら……。
「えーっと……あれ? 確かここに……。忘れてきちゃったのかな?」
何だ? 探し物か? 袖の中に手を突っ込んでる。
ああ、時代劇とかで見たことがあるぞ。
着物にはポケットがないから、あそこに物を入れるんだよな。
俺も今日から着物生活か~。
慣れるかな? いや、慣れていくしかないよな。
四六時中制服ってわけにもいかないし。
「あった! 何だぁ~、こっちの袖だったか」
出てきたのは手拭いだった。
白地に藍色のドットが入ってる。
いや、あれはドットじゃなくて足跡か。
模様の付け方は、無造作を通り越してかなり雑だ。
ペットに悪戯でもされたのかな。
だとしたらめっちゃ微笑ましいな。
「里に戻ったら、お風呂場に案内するね」
「あっ、ありがとうございま――っ!?」
拭き始めた。
俺の唾液塗れの乳首を、そのほっこりほのぼのな手拭いで。
「くぉ……っ」
「?」
妖狐さんはまるで気にしていないみたいだけど、俺的には完全アウトだ。
「いっ、いいです! もう十分ですから!」
「そう? じゃあ……」
意外にもあっさり引いてくれた。
そのことに安堵しつつゆっくりと上体を起こす。
忘れることなかれ、ここは木の上。
それも高層ビル相当の高さを持つ場所だ。
一瞬の油断が命取りになる。気を引き締めていかないと。
「お待たせしました」
ブレザーも含めてきちっと着込んだ。
ボタンは全閉め、ネクタイにも緩みはない。第一印象、大事大事。
「それじゃあ、自己紹介といこうか」
「っ! はっ、はい!」
唇が波打つ。落ち着け。落ち着け。
鼻で息を吸って、静かにその時を待つ。
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