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08.リカさんの命令には絶対に逆らえないの術
「んっ……」
眩しい。あれは朝日か。向こうはまだ明け方だった。時差があるんだな。
「どう? 素敵でしょ?」
「っ! わぁ~!」
目の前には『ニホン昔話』みたいな風景が広がっていた。家は木製。全部で20軒ぐらいある。屋根の上にはいくつもの石が。出入口には長い簾 がかけられていた。
少し離れたところには水田や小高い山が。よく見ると、その周囲は霧っぽくなっている。たぶんだけど、霧の向こうには何もない。この世界はあそこまでなんだろう。
「にっ、人間ニャ!?」
「本当に人間か!? 物凄い妖力だぞ」
周囲がざわめき出した。けど、姿は見えない。隠れてる。これは相当警戒されてるな。
「常盤 様!!!!」
「っ!?」
なっ、何だ!? 何かが迫ってくる。車輪だ。黒い鉄製の。大きさは……4~5メートルはありそうだ。真ん中にはおっさんの顔が付いてる。禿 げ頭で髭 ぼーぼーな。
「おっ、落ち武者車」
「ふふっ、輪入道だよ。名前は大五郎 」
「だっ、大五郎さん」
「その者は一体!? 何があったのですか!?」
「ぎゃあぁああッ!!?」
目の前に来た! と思ったら、燃え出した。熱っ!? しっ、死ぬ!!! 俺は堪らずリカさんの後ろに隠れる。
「っ!」
そこで何かに触れた。これは……尻尾だ!!!
「ふぉ……♡」
あっ、あったかい♡ やわらかい♡♡ さっ、触りたい! この手で直接!! 思う存分……って、待て待て!!!! 今はそんな場合じゃないだろ。集中しろ、俺。
「この子の名前は優太 。妖力を持っているだけの普通の人間だよ」
「にわかには信じがたいことですが、貴方様がそう仰るのなら間違いないのでしょうね」
めっちゃ信頼されてる。『鑑定』の精度は折り紙付きってことか。
「で、その者に何をさせようと言うのです?」
「妖力を分けてもらう」
「……なるほど」
「相当な量になるだろうから……悪いけど、他のみんなは遠慮してもらいたい」
おっ? ……おぉ!! みんなのおっぱいルート回避!! こいつはありがてえ。
「それは構いませんが、その……危険ではありませんか? 暴れたりしたら怖いですニャ」
「大丈夫。安全策は取ってあるから」
「へっ?」
覚えがない。そんなやり取りしたっけ?
「術をかけたんだ。優太はもう私の命令には逆らえない」
「はっ!?」
なっ、何だそのドエロい術は!?
「『操術 』ですな。まぁ、それならば」
大五郎さんの炎が消える。警戒を解いてくれたってことなんだろうけど……素直に喜べない。こんなん落ち着いていられるわけがない。だって、だってリカさんの命令には逆らえないわけだろ?
「…………」
頬っぺたの内側がムズムズする。きっ、期待してるわけじゃないぞ!!
「操術?」
「はて?」
「まぁ、見てて」
っ!!? やっ、やるんですか!? それも今っ!!?
「優太」
「はっ、ははははっ、はい!」
「宙返り」
「え゛っ!?」
無理だ。トランポリンの上でも出来ないのに――っ!?
「わっ!!」
跳んだ。物凄く高く。そんで視界が一回転。しゅたっと難なく着地した。
「でっ、出来ちゃった。万年体育3のこの俺が」
「次は~……側転、側転、からの後ろ宙返り♪」
「っ!!? うおおぉぉぉぉぉおお!!?」
体が勝手に動きまくる。別人かってぐらい軽い。でも。
「はぁ……もう……ダメ……」
HPは変わらないみたいだ。地面にしゃがみ込む。汗が止まらない。心臓もバクバクして。
「にょほほほっ!」
「ぶふふっ!」
なっ、何かウケてる? ははっ、ならいっか……。
「さ~て、次はどうしようかな~」
「うぐ……っ」
まっ、まだやるのか……。よっ、よよよよし! こうなったらもう破れかぶれだ!
「バッチコイ!!!」
「好きにしていいよ」
「………………………………はい?」
「私を、君のしたいように」
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