参加するオメガは、ユリウスが最後の到着だったようだ。 　開始時間になると、再び案内役の侍従が現れ、揃って別の場所へと連れて行かれた。 　先程の控えの間の何十倍もありそうな大きな広間だった。窓にステンドグラスが嵌め込まれ、大きなシャンデリアが下がっている。奥には玉座と思われる金や宝石の装飾が施された豪勢な椅子があり、両側からそこに斜めに向かう形で、20個ほどの一人掛けの椅子が並べられていた。 　その並んだ椅子の手前に横並びで平服するように言われ、一斉に膝を折る。 　まもなくして背後から足音や衣擦れの音が近付いてきて、椅子に腰かける気配がした。 　顔を上げるように言われて、恐る恐る、ひれ伏していた体を持ち上げる。 　並べられていた椅子は、玉座も含めて全て埋まっていた。 　今回の選定の儀に参加しているオメガは10人。品定めするようにそれを見下ろす人たちは、全部で20人ほどで、そのうち2人は女性だった。 　見た目や背格好から、アルファとベータが半々くらいかと思われた。アルファは体格に恵まれていて容貌も整っているため、見た目でなんとなくわかる。 　現帝はまだ20代と若く、皇子は全員幼いため、今回の選定の儀に参加する皇族は、皇帝の弟君や、皇帝にとっては叔父にあたる先帝の弟君という話だ。 　選定の儀とは、儀式とは名ばかりの、よく言えば顔合わせ、悪く言えば品定めといった感じだった。 　侍従に指示され、横並びになったオメガが、端から順に名前や出身地、特技などを自己紹介していく。 　ユリウス以外の全員が、歌や踊り、楽器の演奏などの何らかの特技を持っていた。着ている物も平民にしては良い物を身につけている。ユリウスのように実家が貴族か、もしくは何らかの後ろ盾があるのだろう。王族の妾になるかもしれない相手とお近づきになりたい貴族がいてもおかしくない。 　少なくとも、薬草作りという特技というより単なる趣味を紹介したのは、ユリウスだけだった。 　オメガの自己紹介が一通り終わると、最初に皇帝陛下が首を横に振った。 　皇帝には既に妃妾がたくさんいるらしいから、よほど心奪われるような見目でない限り、選ばれないのだろう。 　皇帝陛下の次は、並んだ椅子の一番奥に座っていた壮年の男性が首を横に振り、続いてその向かい側の二十代半ばくらいの男性は、女性のオメガを指名した。 　皇族の名前や地位は全くわからないが、身分の高い順に奥から並んでいて、その順に選んでいっていることはなんとなくわかる。 　指名されたオメガは礼を言って平服するため、顔を上げているオメガが徐々に少なくなっていった。 　 　始まる前は、最悪、臣下への褒賞でも仕方がないと思っていたけど、実際に周りがどんどん指名されていく中でいつまでも自分の名が呼ばれないのは、かなり辛いものがある。 　ついに、最後の皇族がユリウスを一瞥し、首を横に振ったときには、泣きそうになった。 　選ばれなかったのは、ユリウス一人だった。