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選定の儀(5)

 皇帝に続き皇族が退室し、しばらくすると、指名されたオメガには、それぞれ侍女の迎えが来て、別の場所へと連れて行かれた。これから主となる殿下との個別の謁見があるらしい。  一緒に参加していたオメガたちの美しさを思えば、自分が選ばれなかったことは当然の結果と納得できる。  でも、「ユーリがどの殿下に選ばれるか楽しみね」と言って笑顔で送り出してくれた家族のことを考えると、選ばれなかったこと以上に家族をガッカリさせてしまうことが辛かった。  しかも、選定の儀で選ばれなかったということは、これからは褒賞として臣下に贈られるのを待つ日々になるのだ。人ではなく、ただの贈呈品扱いだ。そのことも、妾の子でありながら家族の一員に加えてくれた両親や姉弟に、顔向けできない思いだった。品物扱いされるような人間に愛情を持って接してもらったことが、ただただ申し訳ない。  一人だったら、きっと涙を堪えきれなかったと思う。 「イェーガー様はこちらにお願いします。これから会って頂きたい方がいます」  ユリウスと同様に最後まで残っていた案内役の侍従に声をかけられ、重い体に鞭打って、なんとか立ち上がった。  右から左に聞き流していたから、てっきり宮殿の入り口のところまで見送られるのだと思っていた。とりあえず、今日はもう帰されるのかと。  しかし、向かったのは宮殿の入り口ではなく、先ほどの控えの間でもなく、宮殿の奥へと進んだ先にある別の部屋だった。侍従が部屋の扉をノックし、入るように促される。  部屋の中へと一歩足を踏み入れたユリウスは、その場に立ち尽くした。  中にいたのは、見上げるほど背の高い男性だった。  廊下の窓から射し込む陽の光が、ユリウスを通り過ぎ、その人に注がれている。まるでその人自身が光を放っているように、神々しく見えた。  立派な体格だけでなく、精悍な顔の輪郭に彫刻のように目鼻立ちがくっきりしていて、アルファだとひと目でわかった。ただ、目尻が少し上がった切れ長の眸は、眼差しが鋭すぎるせいで、『美しい』よりも『怖い』という印象を抱かせる。  黒に近いダークブラウンの髪とヘーゼルナッツ色の瞳は、大昔にどこかで見たことがあるような既視感を覚えたが、すぐに勘違いだと頭の中で否定した。これほどの美丈夫とどこかで出会っていたら、忘れるはずないだろうから。  身につけている金の刺繍と金ボタンの施されたフロックコートは、衛兵が着ているものとよく似ている。衛兵のコートがえんじ色なのに対し、目の前の人が着ているのは濃紺だった。黒い細みのトラウザーズに丈の高いブーツを履き、腰に剣を下げているところを見ると、おそらく騎士だろう。  単に剣を下げているからではないと思う。  その人が発する圧倒的な威圧感を前に、金縛りにあったように身が竦み、一歩も動けなかった   「こちら、第3皇弟殿下のラインハルト・ヴァルテンベルク様です」  侍従の声で固まっていた体が動き出し、反射的にその場に跪いた。  ――第3皇弟殿下だって!?  と、侍従の言葉を遅れて理解したのは、頭を床に擦りつけた後だった。

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