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第5騎士団(8)

 従僕長は執務室らしき小部屋で帳簿を見ているところだった。髪に白いものが混じった初老の男性で、ユリウスたちに値踏みするような視線を向けてくる。  アルミンに次いでユリウスも挨拶をし、紹介状を見せると、書いてあることが信じられない、とでも言いたげに、文面とユリウスの顔の間で何度か視線を往復させた。 「ガイトナー公爵のご紹介ですか……。それに、ガイトナー公爵の義理の弟君で伯爵家のご子息……」 「伯爵家といっても、僕は庶子なので平民です」    ユリウスは慌てて言い添えた。  いきなり行って雇ってもらえるものではないだろうと思っていたから、ユリウスはエイギルに頼んで、身元を保証する紹介状を書いてもらっていた。  働き口を言わなければ書かないと言われたので、姉やラインハルトには内緒にしてもらうよう約束をこじつけ、第5騎士団に行くことをエイギルにだけは伝えている。 「なぜ貴族のお坊ちゃまが騎士団の使用人に?」  その質問は想定の範囲内なので、答えを用意してあった。 「家は貴族でも僕は平民なので、ここに来る前は都で侍従として働いていました。諸事情で主が都を離れることになり、働き口が無くなったので、次は郷里からも程近いこちらで働かせてもらいたいと思いまして……」 「そうでしたか……。新しく来た副団長が皇弟殿下なので、私のほうでも、それなりに家柄のよい従僕を探していたところです。来てくれてよかった。あなたなら、うってつけです」 「……へ……? い、いや、ちょちょちょちょっと待ってください!」  あまりに焦り過ぎたせいで、声が裏返ってしまった。  なんでいきなりそんな話になるんだ?  このままだと、副団長付きの従僕にさせられてしまう。というか、身の回りの世話は近侍の兵がするんじゃなかったのか!?  急に頭が混乱してきたが、早急に断らなければいけない話であることだけはわかる。  その副団長から侍従を解雇(クビ)になった身なので……。とは正直には言えない。他の理由を考えるしかなかった。 「来たばかりの使用人を副団長付きにするのはあまりにも危機感がなさすぎるのではないでしょうか? 例えば、僕が副団長の命を狙う刺客で、紹介状も偽装したものだったらどうするんですか!?」  隣から、ぷっ、という破裂音が聞こえてくる。 「君が刺客なんて、どう見ても無理があるよ。俺でも勝てそうだ」  よほど可笑しかったのか、アルミンが肩を震わせて笑っていた。 「でもほら。力がなくても、毒殺って方法もあるだろう?」  喋りつつ、なぜ僕は、自ら刺客かもしれないアピールをしているのだろうと思わなくもない。 「でも、殿下とも面識がおありなんですよね? ガイトナー公爵とラインハルト殿下は従兄弟だそうですね。殿下とイェーガー様も親しい仲で、イェーガー様の身に何かあれば殿下の逆鱗に触れることになるから、ゆめゆめ扱いには気をつけるようにと書いてあります」  ちょっと、エイギル様。何を書いてくれてるんだー! と叫びたい気持ちだった。

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