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第5騎士団(7)

 いくつかの角を曲がってアーチをくぐった先にあったのは、広場のような何もない広々とした場所だった。そこで砂埃に包まれ、重そうな鎧や兜をつけて、剣を交えている兵士たち。中には馬に乗っている人もいた。  何事かと一瞬ぎょっとしたが、よく見ると倒れている人や血を流している人はいない。どうやら訓練のようだ。    副団長と使用人が顔を合わせることなんてないだろうと思うが、万が一、殿下と顔を合わせたら、言い訳のしようがない。  その不安から、白馬(アルバ)に身を隠すようにして、兵士らの訓練を眺めていると、背後で「すみません!」と声がした。  振り返ると、ユリウスと同じように馬をつれた、赤毛の青年が立っていた。声をかけたのはユリウスに対してではなく、近くで訓練の様子を見ていた騎士に対してだ。  その人は鎧も兜もつけておらず、鎧の下に着る鎖帷子(くさりかたびら)だけだった。腰には剣を携えている。 「騎士団で使用人として雇っていただきたいのですが、どちらをお訪ねしたらよろしいですか?」  赤毛の青年は、ユリウスと同じ目的でここに来たらしい。  訓練に参加せず見守っていたということは、部隊長とかの偉い人かもしれないし、偉い人じゃなくても、いきなり騎士様に話しかけて大丈夫か!? と他人事ながらハラハラしたけど、意外にも騎士は親切に、厩舎の場所と従僕長のいそうな場所を教えてくれた。  ユリウスは赤毛の青年に後ろからついていき、兵士たちが見えなくなったところで思い切って話しかけた。 「あ、あの……、僕、ユリウス・イェーガーといいます。僕も、騎士団で使用人として働きたくて、来たんです。故郷はカッシーラー辺境伯領です」  青年は一瞬虚を衝かれた顔をし、続いて人好きのする柔和な笑みを浮かべた。  くるくるとカールした赤毛に瞳の色はモスグリーン。鼻はあまり高くなく、頬にそばかすがある、愛嬌のある顔をしている。年はユリウスより2、3才上に見えた。 「俺はアルミン・カペル。ウェルナー辺境伯領の東のダール村の出身だ。農家の次男坊でね。家は兄貴が継ぐし、家の近くには働き口もないから、お城まで出て来たんだ。辺境伯の侍従になるのは無理でも、軍の使用人になら、俺でもなれるかと思って」  北方の村の出身にしては訛が全然ないことを少しだけ不可解に思ったが、すぐにどうでもいいこととして頭の片隅に追いやられた。悪い人ではなさそうだし新人の使用人が他にもいることは心強い。 「よろしく。アルミン。僕のことはユーリって呼んで」  ユリウスはにっこりと微笑み返し、彼と仲良くできそうなことを嬉しく思っていた。

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