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第5騎士団(6)

 ウェルナー家は帝国内でも有数の名家で、北方に広大な領地を有している。北の隣国ケースダルム王国との国境のほとんどがウェルナー辺境伯領であることから、建国以来、北の国境警備を担ってきた。  ユリウスの故郷のあるカッシーラー辺境伯領は、その西側に位置している。  都からウェルナー辺境伯領へと続く道は、ケースダルム王国やそれより更に北に位置する国々との交易路で、街道が整備されており、街道沿いには街や大きな村が点在している。人通りも多いため、追いはぎに遭う心配はほとんどなかった。    都の初夏は、北方育ちのユリウスにとっては真夏かと思うほど陽射しが強い。北に行くにつれ、徐々に陽射しが和らぎ風も涼しくなって、晴天下で馬の背に揺られるのも苦ではなくなった。  すれ違う旅人や行商人に宿や食堂の威勢のいい呼び込みの声。食欲を刺激する美味そうな匂い。遠くの山の斜面に散らばる羊たちの群れ。乗馬での移動は見聞きするもの全てが新鮮だった。  昼間は色んなものに興味を引かれ、初めての一人旅を楽しんでいたが、夜になると途端に心細くなる。  途中までは都に来たときに通ってきた道なので、以前に利用した宿に泊まった。それでも、最初は緊張で寝つきが悪かった。こっそり拝借してきた殿下の衣を抱きしめて眠っているうちに、いつのまにか眠りについていた。  カッシーラー辺境伯領へと向かう分かれ道を過ぎてからは、前日に泊まった宿で北方から来た旅人にお勧めの宿を聞き、そこに泊まるようにしていた。  そのお陰もあってか、ならず者に絡まれることもなく、7日かけて、ウェルナー辺境伯領の北の国境近くにあるウェルナー城に辿り着いた。  隣国ケースダルム王国との国境を成す山脈を背に、遠くから見てもその大きさが窺い知れる壮麗な城が築かれている。  山の麓ではなく、しばらく登った中腹にあって、道は整備されているものの、こんな山の中にこんな巨大な城が造れるのかとかなり度肝を抜かれた。  軍営と聞き、移動用の天幕(テント)が並んだ光景を勝手に想像していたのだが、宿のおかみに聞いたところによると、このウェルナー城の一部が辺境伯軍と帝国騎士団の軍営になっているのだそうだ。  城をぐるりと取り囲む高い城壁の手前で馬から降り、馬を引いて門兵に指示された城の西側に向かうと、やがて剣を交わす金属音や、人の怒号や馬のいななきなどが聞こえてきた。

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