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はじまりの場所(9)

 昼間のうちに順番に湯浴みをし、夕食を食べて自室に引き上げたら、お互いに我慢ができなくなった。  扉が閉まるか閉まらないかのうちに唇を奪われ、拙い動きながらも、ユリウスも懸命に応じた。  殿下は明日、ウェルナー辺境伯領に戻る。  妊娠のことを伝えたら、身重の体で勝手に故郷に戻ろうとしたことを叱られ、子供が生まれるまではここにいるように言われた。  ユリウスは全力で遠慮したのだが、ユリウス専属の侍従として、都からワーグナー夫妻も呼び寄せるという。  新たに家まで建てそうな勢いだったから、部屋はたくさん余っているので大丈夫です、と父に止めてもらった。  休みの日には会いに来る、と言ってもらえたが、しばらくは離れ離れになる。だからユリウスも、今夜のうちに存分に、殿下の痕跡を身体に残したかった。  質量のある、やわらかな熱が口内で蠢く。舌を絡めとられ、夢中で応じた。一気に濃くなった殿下の香りに、唇だけでなく、目も鼻も耳も、体中の毛穴までもが塞がれた感覚がする。  自身からも、発情期(ヒート)中とはまた少し違った、落ち着いた甘い香りが漂い始めるのがわかる。  呼吸は苦しいのに。心と体は悦びにわななく。合わさった唇の端から飲み込みきれなかった唾液が伝うのも気にせず、夢中で舌を絡め、口内を貪り合った。  両側から頬を包んでいた手がそこから離れ、片方は耳を擽り、もう片方は背中に周り腰をぐいと引き寄せられる。寝間着の上からでもわかるほどに昂った雄を下腹に押し付けられ、余裕のなさを知らしめられる。 「抑えられそうにないのだが……、腹に子供がいるのなら、やはり最後まではしないほうがいいのだろうな。このままだと、つがいにしたときのように我を忘れてしまいそうな気がするから、俺は別の部屋で寝たほうがいいのかもしれない」 「あ……、あの……、それほど激しくしなければ、最後までしても大丈夫だと、お母様が……」 「聞いたのか?」  顔を真っ赤に染め、ユリウスは頷いた。  実家でそういう行為をすることも、母にそんなことを訊くことも、猛烈に恥ずかしいが、でも、それを我慢してでも、殿下としたいと思ったのだ。   「もし……、明日の朝、ユーリが足腰が立たなくなっていたら、俺はしばらくこの家に出入り禁止になるだろうな」  そう言う殿下が本気で困った顔をしていたから、ユリウスはぷっと吹きだした。 「そうですよ。だから、手加減してくださいね」  手を引かれ、ベッドに連れて行かれる。  衣を取り払われ、殿下自身もすぐに全て脱ぎ去って、互いに一糸まとわぬ姿になった。

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