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出会い

 今日から高校生活が始まる。  家から近い青葉高校。男子校だ。  真新しいブレザーの制服を着て家を出ると、見慣れた顔があった。 「夏樹!おはよ~♪」 「おはよ」  相川澪。小さい頃からの幼馴染で、いつも側にいるやつ。小柄で見た目や仕草が女みたいな所もあるけど立派な男。 「ねぇねぇ、昨日の入学式でチラッと見つけたんだけど、すっごいイケメンがいたんだよぉ!」 「俺の事か?」 「夏樹が言うと冗談に聞こえないから!」  澪がぷくっと膨れてそう言うのも、俺もそのイケメンの部類に入るかららしい。見た目が幼くてよく女に間違われる澪にとって羨ましいとか。  まぁ、この顔で損した事はないし嫌ではないけど、母親似で中性的な顔だから、ガキの頃は澪と一緒に女と間違われる事は多々あった。 「てか弘樹はー?一緒じゃねーの?」 「ううん。知らなーい。先に行ってるよきっと」  高城弘樹。もう一人の幼馴染。一人が好きらしく、必ず俺たちと一緒にいる訳ではない。背が高くて更に顔も良い。多分俺たちの中で一番モテるよ弘樹は。澪みたいに無駄に喋らないし、スポーツも勉強も得意。俺も困ったら弘樹に頼るぐらいだ。 「そう言えばヒロくんさ、春休み中に告白されたらしいよ!」 「まじか。まぁ弘樹は男の俺でもかっこいいと思うからなぁ」 「うんうん!ヒロくんもイケメン~!みんなずるーい!」 「なぁ、弘樹って結構告られてるけど、何で誰とも付き合わねぇの?かなり面食いなのか?」 「そりゃヒロくんは……め、面食いだからだよ!」 「ふーん。澪と同じねー」 「……ねぇ、夏樹は好きな人とかいないの?」 「いないね」 「夏樹のそういう話聞いた事ないからさ~。高校生になったんだし、恋も楽しみたいじゃん!?」 「それは澪がだろ。俺は興味ねーよ」  目を輝かせて訴えてくる澪。こういうとこ本当女子みたいだよな。たまについていけない時がある。  そんな俺も全く誰かと付き合った事がない訳ではない。中学の時に女子から告白されてノリで付き合ったんだけど、よく分からなくてすぐに別れた。  正直、誰かを恋愛感情で好きと思った事がないんだ。だからいつも誰かしらに恋してる澪の気持ちが分からない。  澪とそんな話をしながら途中でバスを使い、新しい学校へ向かう。  昨日は入学式だけだったが、今日からは普通に授業が始まるらしい。まぁほとんど自己紹介とか、そういうのだろうけど。  学校が見えて来たと同時に、澪が何かを見つけて騒ぎ出した。 「いたーー!昨日のイケメンー!」 「は?どれ?」 「ちょっと声かけてくる!」  そしていつものように、アタックしに行った。澪のこういう時の行動力にはほんと関心するよ。  俺には無いところ。  何かに夢中になる。  一生懸命になる。  必死になる。  昔から一緒にいる中で、澪のそういうところは呆れる時もあれば、羨ましく思う時もあった。  今はどちらでもない。ただ目的に向かって駆け寄る澪の後ろ姿を見ていた。 「おはよう」 「!」  突然耳元で声がして振り向くと、さっき澪との会話で出て来たもう一人の幼馴染の弘樹が爽やかな笑顔でいた。  さすが、男の俺が認める程の男前だ。新しい制服のネクタイが良く似合う。 「はよ、弘樹。先に行ったのかと思った」 「ちょっと道に迷っちゃって今着いたとこ。夏樹、制服似合ってるね」 「はは…お前程じゃねぇよ」 「ずっと学ランだったし、ネクタイって慣れないから変な感じだよね。あ、夏樹待って」 「ん?」  そう言って俺の前に立ち、俺のネクタイをいじりだす。曲がってたか? 「よし、いいよ」 「さんきゅ。相変わらず頼りになるな」 「夏樹のためなら何でもするよ」  いや、いつもの笑顔でサラッと言うけど、弘樹は本当に何でも出来てしまう優等生だから怖い。まぁ、それに甘えてる俺も俺だけど。 「教室、行こうか」 「おう」  そうそう、俺と弘樹は同じクラスになった。澪は隣のクラス。その事に対して昨日澪が、寂しいだのズルいだのギャアギャア騒いでたけど、大好きなイケメンを見つけてから大人しくなった。澪の性格ならどんな環境でもすぐに馴染むだろう。  弘樹と並んで校舎へ向かう。途中でイケメンに話しかけてる澪とすれ違った。  澪はそちらに夢中で、俺たちに気付いてないみたいだからほっとこうと一瞬見た時、イケメンと目が合った。  確かにイケメンだ。  女子がいたら間違いなくファンクラブが出来るぐらいの。冷静沈着な弘樹とは違ったイケメン。弘樹が和風なら、こちらは洋風って感じか。  肩まである金に近い茶色の髪が風になびいて、チラッと見えた綺麗な二重の瞳がこちらを見ていた。  これが俺とこいつの出会いだった。

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