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隣の席
振り分けられた教室に行くと、既にクラスメイト達で賑わっていた。席は黒板のとこに張り出されていて、見ると名前順みたいだ。
「俺、前の方だ。夏樹は後ろだね」
「そうみたいだな」
俺の苗字は間宮。だからいつもこういう時は後ろになる事が多い。最後の最後って訳じゃ無いから運が悪いと前の方とかになったりするけど、今回はラッキーな事に窓際から二列目の一番後ろだ。
鞄から昨日配られた教科書とかを出してると、隣の窓際の席のやつが来たみたいで誰かが椅子を引く音がした。
「あれ、キミってさっきの?」
「へ?」
机の中に教科書が入りきらなくて苦戦してるところに、いきなり声を掛けられて少し驚いた声がでてしまった。
「あはは、それ全部持ってきたの?さては置いて帰るつもりだー」
その通りだ。俺は鞄が重くなるのが嫌だから教科書やノートは全て学校に置きっ放しにするんだ。って、そんなのはどうでもいい。
声の方を見るとさっきまで澪が夢中になっていたあのイケメンがいた。
え、まじで?同じクラスどころか隣の席なのかよ?澪がうるさくなりそうだ。
「あ、入りきらないなら、すぐ使わない物はロッカーに入れとけば?」
俺がいろいろ考えていると、それぞれの名前が貼ってあるロッカーを指差した。
「ああ、そうする」
「ねぇ、さっき下で目が合ったよね?」
「……さあな」
「合ったでしょ。凄く綺麗な子だったから覚えてるよ。まさか隣の席になるなんてビックリ」
綺麗。久しぶりに言われたから少し戸惑う。でも、イケメンに言われてるんだすぐにどうでも良くなった。どうせみんなに言い慣れてんだろ。
「間宮だ」
「んー?」
「間宮夏樹っていうの俺。そっちは?」
「和久井律だよ。夏樹!よろしく~」
見た目通り明るいやつだった。これだけ派手な見た目だから周りに人が居ない事なんてなかったんだろう。
まぁ隣になるのが変な奴じゃなくて良かったな。
「夏樹、一緒にいたのってあそこに座ってる人でしょ?」
少し離れた前の席に座る弘樹の方を見て言う。弘樹の事も見てたのか。
「そうだよ。弘樹っていうんだ」
「二人とも目立ってたよ。モデルか何かかと思ったもん」
「さっきからすげー褒めてくるけど、和久井の方が目立ってんだろ。現にもう一人の連れが騒いでるし」
「えー、まだイケメンさんの友達いるのー?夏樹ってすごいなぁ」
どうやら澪の事だと思ってないらしい。ちょっと面白いから黙っとこ。
「俺ね、さっき目が合った時、夏樹と仲良くなりたいなぁって思ってたの。だから、同じクラスで隣の席になれてちょー嬉しい」
「そうですか……まぁこれからよろしく」
なんとまぁフレンドリーなイケメン。思ってる事を口にするって澪みたいだなとか思ってしまう。
澪と違うと言ったら明らかな見た目と、澪よりは発する言葉が柔らかい事。初対面だからかもだけど、これが一般人とイケメンの差かと実感できた。
「そうだ、放課後時間ある?良かったら一緒に帰ろう」
もうすぐホームルームが始まるという時に誘われた。
中学からずっとそうだったから、澪とはこれから登下校一緒にすると思う。弘樹は居たり居なかったりだから分からないけど、そうなると澪が喜ぶな。
何だか面白そうだったから、俺は頷いた。
「いいよ。違うクラスの連れもいるから紹介するよ」
「やった♪ありがとう夏樹」
イケメンで良い人。隣の席になった和久井律への第一印象はこうだった。
それから淡々と授業が始まり、毎時間軽い自己紹介やらをしてたらあっという間に午前中が終わった。学校の授業が好きじゃない俺からしたらこういう日は嬉しい。
昼休みになると、すぐに澪がやってきた。そして予想通りの反応をしたから面白かった。
「あー!律くんだぁ!」
「あ、朝の……」
どうやら和久井も澪の事を覚えていたらしい。ヤバい。二人を見てるとニヤけてしまう。
「なんでなんでぇ!?夏樹ってば先に教えてよー!」
「すぐ分かる事だし別にいいだろ。それより腹減ったー」
「もしかしてもう一人の連れって、えっと……みよくん?だっけ?」
「あはは!みよくんだって!」
「み、澪だよぉ!ちょっと夏樹ってば笑いすぎ!」
これは笑うでしょ。憧れてた相手に名前間違えられてるとか澪だから面白い。
てか和久井って天然か?まぁ朝の一瞬で挨拶しただけだろうから間違えても変じゃないけど。うん。澪だから面白い。
「ごめんね!俺記憶力悪くて」
「大丈夫!ねぇ、律くんも一緒にお昼食べない!?」
「俺もいいの?」
何故か俺の方を見て確認する和久井。ちょうど澪の事を紹介する気だったから三人で食べる事にした。
「ヒロくんはもう食べ始めてるねぇ」
「そのうち本読み出すな」
「誘わなくていいの?」
弘樹はいつもこうだ。一人でいるのが好きだから基本的に一人で行動する事が多い。誘えば応えてくれるし、向こうから誘ってくる事もあるから、こちらからは無理には誘わない。何年もこうだから俺と澪は慣れている。
「ヒロくんは大人だからいいんだよ。それよりも夏樹ってば羨ましすぎー!律くんと同じクラスで更に隣の席だなんて!」
ちゃっかり和久井の前の席の椅子に座って席を確保する澪はこれまた予想通りのセリフを俺にぶつけた。澪は本当に分かりやすいやつだ。喜怒哀楽がハッキリしているから、一緒に居るのも楽。
「澪くん、今日の帰り、俺も一緒してもいいかな?夏樹には言ったんだけど」
「え!律くんと帰れるの!?もちろんOKだよ!」
「澪、とりあえず大きな声で話すのやめろ」
女子みたいに騒ぐから、周りもチラチラ見てる。ただでさえ和久井が目立ってるのに、うるさい澪がいたら余計だ。
弁当を広げながら注意すると、澪はまた大きな声を出した。
「律くん!お昼それだけ!?足りるの!?」
「うん。いつも朝とお昼はこんな感じだよ」
澪が驚くのも、和久井はコンビニで買ったであろうクリームパン一個とペットボトルのお茶しか持ってなかったからだ。コレは……女子でも足りないんじゃ?
「二人のお弁当は美味しそうだね。澪くんはそれ食べ切るの?」
そうそう、澪は大食いだ。俺と弘樹より体が小さいはずなのに、食と声だけは誰よりもしっかりしてる。
澪が広げた、二段になってる弁当箱の他に一段だけど大きめの弁当箱があるのを見て和久井が聞くのも無理もない。一段の方にはご飯がびっしり。二段の方にはおかずがびっしりだった。
和久井に言われたからか澪は少し恥ずかしそうにしていた。
「えへへ。実は足りないぐらいなの」
「澪はいっぱい食べないと大きくなれないんだよなー」
「ちょ、夏樹ってば馬鹿にしないでよぉ」
「食べないよりいいだろ。ほら俺のおかずやるから黙って食べろ」
「わーい♪夏樹ありがとー」
「……」
いつものように俺が澪におかずを分けてあげてると、和久井が黙って見てた。あ、これは幼馴染でもやりすぎなのか?俺たちにとっては普通の事なんだけど。
「和久井どした?」
「え、ううん。仲いいなーって見てた」
「腐れ縁ってやつだよ」
「そんな言い方しないでよ~。俺と夏樹は幼稚園から一緒なんだ。だから兄弟みたいな感じだよ」
「ずっと一緒だったの?」
「そう!ヒロくんは小学校の途中からだけど、俺と夏樹はずーっと一緒」
「へー、それは凄いね」
たまにこの話をすると凄いと言われる事が多いけど、俺たちからしたら普通の事だ。だから凄いに対してなんて答えればいいのか分からない。だから話を逸らそう。
「話変わるけど和久井ってさ、付き合ってるやついるの?」
「えっ」
「ぶ!夏樹ってばいきなりやめてよ!」
澪が喜ぶ話題だと思ったから出したのに、急にむせだして何故か怒られた。
和久井ならいてもおかしくないからか?いたらショックだからか。
「いないよ。夏樹は?」
「俺もいない。もちろん澪も」
「そうだけど!もちろんは余計じゃない?」
「あは、二人って面白いね。ところでどうして聞いたの?」
「そりゃ澪が……」
「わーわーわー!律くんならモテるだろうなぁって思ったからだよね!?」
「……うん」
「そっか。そうでもないんだけどね」
「?」
和久井が何か言いたげだったが、なんか澪の様子がいつもと違うからこれ以上茶化すのはやめにした。
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