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第42話

 笑う太狼を、虎獣人が鋭い口調で叱る。 「太狼! 口が過ぎるぞ。君子(くんし)は器ならず、皇上をからかうなど言語道断の恥ずべき行いだ、反省したまえ」  吠えるように迫力のある叱責なのに、太狼は狼の尾を機嫌良さげに揺らしてどこ吹く風といった調子だ。 「人みな人に忍びざるの心ありという言葉を知らないのか? もちろん俺にもある」  白露は二人の顔を順番に見ながら、一体何の話をしているんだろうと疑問符で頭をいっぱいにした。華人の言葉には例え話やことわざが多くて、意味を知らないと理解できない。  琉麒はもちろん知っているようで、さらりと太狼に返答をよこす。 「どうだろうね」 「うわ、酷え! 聞いたか虎炎、皇上が俺のことを人でなし扱いをするんだ!」 「さもあらん」 「アンタもかよ!」  太狼は大袈裟に嘆いてみせるが、本気で悲しんでいるわけではなさそうだ。すぐにパッと顔を上げて、棒立ちしている白露に気づいて声をかけてくれた。 「ああ、悪いな白露。まあ座れよ」 「白露、こっちにおいで」  太狼は甲斐甲斐しく白露の手を引く皇帝を見て、ひそひそと虎獣人に耳打ちする。 「見たか、あの砂糖菓子に蜂蜜をぶっかけたような顔を。運命の番ってすげえな、どんな絶世の美男美女オメガが迫ってきても一線を引いていた琉麒を、あそこまで骨抜きにするなんてさ」 「喜ばしいことだ。これで皇上の治世もより磐石(ばんじゃく)になることであろう」 「君たち、いつまでも話をしていないで早く座ったらどうなんだ」 「御意」 「はいはいっと」  全員が座り終えると虎獣人が口髭を撫でて整えた後、鋭い目を和ませながら白露に挨拶をしてくれた。 「番様、自分は虎炎(こえん)という。(おそ)れ多くも将軍の位を皇上から(たまわ)っておる。以後よろしく頼む」 「あ、ご丁寧にありがとうござ……ありがとう。白露って呼んでね」  白露のもの慣れない様子を見て、虎炎は口元に弧を描いた。 「なんとも初々しいことだ。我が番に会った頃のことを思い出すな」 「虎炎には番がいるの?」 「左様。白露様が会いたいとお望みでしたら、いつでも()せ参じることでしょう」  他のオメガに会ってみたい気持ちはもちろんあるけれど、そんな風に呼びつけていいものかためらって口をつぐむ。白露はまだ、皇帝の番という地位について図りかねていた。

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