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第43話

(無理矢理呼びつけられたって思われたらギクシャクしそうだし、琉麒に聞いてからにしよう)  口調も姿勢もキッチリとした虎炎と違い、背もたれにダラリともたれかかった太狼は呑気に茶々を入れた。 「いいよなあ虎炎は、家格も相性もピッタリなオメガと番えて。俺も早く番を迎えたいもんだ」 「お前は軽薄なように見せかけて、選り好みが激しすぎるのだ」  里では見かけなかったアルファもオメガも、皇城にはたくさんいるようだ。  他人事のように二人のやりとりを聞いていると、太狼の釣り上がった目が不意に白露を見つめて片目をつぶった。 「アンタみたいに擦れていなくて可愛いオメガに、出会えるといいんたけどなあ」  隣にいた琉麒は白露の腰を引き寄せて、半眼で太狼を牽制する。 「私の番をそのような目で見るな」  ドキッと胸が高鳴る。低い声で太狼を威嚇する琉麒は、いつもの穏やかな様子と違って少し強引でときめいてしまう。  太狼はますます楽しそうにニヤけて、虎炎の肩を肘で突いた。 「見たか、あの琉麒が! しばらくこのネタでからかえそうだ」 「やめたまえ、意地が悪いぞ」  食事が運ばれてきた。桃が円卓の中央に運ばれるのを見つけて、白露は目を輝かせる。 「わあ、桃だ!」 「食べさせてあげよう。白露、口を開けて」 「え、いいよ……自分で食べる」  甘やかそうとする琉麒の手から逃れて、白露は頬を染めながらパクリと取り分けられた桃を口に運んだ。こんな衆人環視の中で食べさせられるなんて恥ずかし過ぎる。  太狼は二人の仲良さげなやりとりを見るたびに、終始にこにこと頬を緩めていた。虎炎も厳つい顔を和ませている。 「白露、ここにいる二人は君の絶対的な味方だ。困ったことがあれば遠慮なく声をかけるといい。もちろん私を一番に頼ってほしいが、そうはいかない場合があるかもしれないからね」 「よろしくね太狼、虎炎」 「おう、任せろ」 「御意」  絶対的な味方がいるということは、逆に言えば敵もいるということなんだろうか。気になった白露だったが、食事中に緊張するような話題を振るのはよくないかなと配慮し、ひたすら食事に集中した。  決して食べたくてたまらなくて夢中になって食べていた訳ではない。確かにものすごく美味しかったけれど、それとこれとは別の話だ。

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