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第44話
食事を終えた太狼は、思わせぶりに両手を卓の上で組んだ。
「オメガ子息を皇帝に嫁がせたかった勢力は、しばらく荒れるだろうな」
「太狼」
咎めるように短く嗜めた虎炎に、太狼は肩を竦める。
「知らないより知っていた方がいいだろう? 白露は正式に番としてお披露目できない状態なんだから」
「それは、まだ僕が琉麒と番になれていないせいなのかな?」
「そういうことだ。麒麟族は運命の番じゃなきゃ無理だっつってんのに、それを軽んじる輩がいるんだよ。だが心配しなくてもいい、腕が折れたら袖で隠してやればいいだけのことだ。こんな風にな」
プラプラと右腕を左右に振って遊ばせる太狼に、白露は言葉の意味を尋ねた。
「それもことわざなの?」
「うん? ああ、何か不都合があった時には、身内がそれを庇ってやるもんだって意味だ。アンタが琉麒の番になるのなら、俺にとっても身内同然だからな。守ってやる」
「ありがとう」
心強い宣言に白露は頬を緩めた。白露には足りないところがたくさんあるけれど、心優しい味方がいれば何とかやっていけそうな気がした。
「身内……」
琉麒が何か言いたげに声を発し、太狼は口角を釣り上げた。
「ただの言葉の綾だろう? 本当に余裕がないな、珍しい」
「まだ番ではないからね。首輪をしていない白露と君が会ったと聞いた時、どんなに私が焦ったか忘れた訳ではなかろう?」
「あー、あの時の琉麒の顔といったら! 美形が台無しだぜ、天下の皇帝様があんなもごっ」
いきなり太狼の動きが止まり、口が聞けなくなった。何が起こったのだろうと目を丸くして琉麒に身を寄せると、彼は太狼の方を向いたまま抱き返してくれる。虎炎が深々とため息をついた。
「さもありなん。口が減らぬ男だ」
「しばらくこのままでいてもらおうか」
「どうしたの? 太狼はなんで止まっちゃったのかな」
琉麒は苦虫を噛み潰したような顔をしながら、太狼を見つめ続けていた。
「これが私の術の能力だ。視認した任意の人物の動きを止める。ただ、これには弱点があってな。視線を逸らすと術が解ける」
琉麒が太狼から視線を外すと、太狼は急に術が解かれたせいなのか卓に突っ伏した。ゴンッと痛そうな音が部屋に響く。料理皿が片付けられていたのは不幸中の幸いだった。
「いってえー!」
「自業自得であるな」
額をさする太狼に対して、虎炎も琉麒も白けた視線を送る。白露が一人ハラハラと心配していると、頬にそっと手を添えられて琉麒の玻璃の瞳が眼前に映りこんだ。
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