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第45話

眉根を苦しげに寄せた琉麒は真剣な表情で白露に頼みこむ。 「白露、私と正式な番になるまで、決して首輪を外してはならないよ。太狼と会う時は特に」 「何もしねーよ! 信用ないなあ、酷いぜ」 「君が何もする気はなくとも、急に白露の発情期が来るかもしれないだろう」 「まあ、そりゃそうか。俺も十分に気をつけるとするよ」  琉麒は白露の髪を切なげに撫でた。早く番になりたいなあと白露も願いを込めて見つめ返す。吸い込まれそうな青玻璃の瞳を、いつまででも見ていたくなった。 「二人の世界だなあ。まったく、羨ましいぜ」 「白露は私の番だ」 「わかってるってば、取らねえからそんなに怖い目で見るなよ」  二人は旧知の仲らしく、お互いに言いたいことをあけすけなく言い合う仲のようだ。白露もちょっぴり二人の関係が羨ましくなった。 「琉麒、僕にも遠慮なくなんでも言ってもいいからね?」 「突然何を言いだすんだ白露。私は君に想いを伝えられていると思っていたけれど、ひょっとして十分ではなかったのだろうか」  涼やかな声が段々と熱を帯び始めたのを察して、白露は肩を竦めて手を左右に振りたくった。 「そうじゃないよ! そうじゃなくて、琉麒のカッコ悪いところを知っても嫌いになんてなったりしないよって言いたかったんだ」  琉麒はピシリと体の動きを止める。太狼が思い出したかのようにフッと吹き出した。 「あの時の琉麒はカッコ悪かったなあ。聞きたいか白露」 「太狼? また術をかけられたいのか」 「滅相もない」  太狼は術をかけられる前に自主的に黙り込んだ。虎炎が咳払いをして気まずい空気を誤魔化そうとしている。琉麒は白露から瞳を逸らしたまま、気まずげに告げた。 「お互いのことは、おいおい知っていけばよいと思っている。白露がどうしても知りたいと言うのなら、伝えるが」 「ううん、琉麒に無理をさせたいわけじゃないから、話したくないなら話さなくていいよ」 「それは助かる。あまりにもその、我ながらみっともなかったからな。かわりと言ってはなんだが、望みがあれば言ってごらん。なんでも叶えよう」  琉麒はホッとしたように息を吐くと話題を変えた。琉麒が焦った時にどんな反応をしていたのか気にはなるけれど、無理矢理聞き出して恥ずかしい思いをさせたい訳ではないので、話題転換に乗ることにする。 「そういえば、琉麒にお願いしたいことがあったんだけどいいかな?」 「なんだ?」 「教師をお願いしたいんだ」 「もちろんいいよ、何を習いたいんだ」 「何を習えばいいんだろう……えっと、文字と算学、華族の使うことわざ、琉麒のお仕事に役立つ知識、それから楽器も?」  指を折りながら列挙していくと、琉麒は苦笑した。 「とてもいっぺんには覚えられないだろう。まずはアルファとオメガについて正確に知り、宮廷での立居振る舞いを覚えることが必要だと思うが、どうだ」 「あ、それも必要だよね」  気が逸って肝心なことが抜け落ちていた。

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