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第51話
(宇天はよく竹林にいるって聞いてるから、きっと竹が好きなはず)
喜んでもらえたら嬉しいと、頬を緩める。竹皿を布で丁寧に包んだ。
「魅音、竹林に行くからついてきてくれる?」
「……かしこまりました」
魅音は不安げに眉根を寄せているけれど、なにをそんなに心配することがあるのだろう。首を傾げながら魅音と護衛を連れて茶室の側まで向かう。
すると雲まで突き抜けるような鮮やかな和音が耳に飛び込んできた。音の発生源には笙を口元に構えた白髪のテン獣人がいる。
「わあ、すごい……」
宇天が抱えられるくらいの大きさの楽器なのに、どこからあんなに大きな音が出るんだろう。典雅な音色を響かせていた宇天は白露の姿を見つけると、演奏を止めて楽器を小脇に抱えて手を振る。
「やあ、来たんだね」
「お邪魔して大丈夫だった?」
「別にいいよ。そろそろ練習をやめて帰ろうかと思っていたところさ」
「それなら間に合ってよかった。また会えて嬉しいよ」
目をパチクリさせた宇天は、照れたようにそっぽを向く。
「ボクは会えなくてもどっちでもよかったけどね。よかったね白露、ボクに会えて」
「うん」
白露が素直に肯定すると、宇天は頬を桃色に染めて眉根を寄せた。
(照れてるのかな、かわいいなあ)
ニコニコしながら見守っていると、宇天は誤魔化すように咳払いをして話題を変えた。
「んんっ、ところでボクに会いたかったってことは、なにか用事でもあるの?」
「ううん、単純にまたお話してみたかっただけなんだけれど」
「ふうん。まあ、ちょっとくらいならつきあってあげてもいいよ。座れば?」
竹製の長椅子に腰掛けた白露はさっそく布を解いて、隣に座る宇天に竹皿を差し出した。
「はい、これあげる」
「なにこれ」
宇天は竹皿の端を指先でつまみ上げながら、首を傾げて眉をひそめた。
「竹皿だよ、見たことない?」
「竹? ええ、これ竹でできてるの?」
宇天はぽいっと白露に皿を投げ返した。困惑しながらも慌てて受け取る。
「宇天?」
「いらない。竹皿なんて、庶民が使うものじゃないか」
「あ……」
「あのね、ボクがそんなものもらって喜ぶと思った? ボクがもらって嬉しいのは宝玉に絹、金銀細工と伽羅のお香だから。まったく、覚えておいてよね」
華族は竹皿なんてみすぼらしい物を使わないらしい。
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