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第56話
熱のこもった瞳にたじろいだ。
「白露、君と会えたからだ。君が華族らしくなくとも、庶民のような振る舞いをしようとも、君への愛情はまったくもって揺らがない」
「……どうして? なぜ会ったばかりの僕に、そういう風に思うんだろう。運命の番だから?」
「運命の番だからこそ、君を唯一の人だと感じている。だがそれだけで惹かれているわけではない」
黄金が煌めくような、日の光が差し込むような、そんなきらびやかな現象をふんだんに集めたような微笑が溢れる。
「私は君の心根の清らかさ、無垢で柔らかな笑顔も、予想のつかない発想をするところも、全て含めて愛おしく想っている」
「琉麒……」
胸の奥からじわっと熱いものが噴き出して、喉が詰まって言葉が出てこない。琉麒はすべてわかっているかのように、優しく白露の背を撫で続ける。頼り甲斐のある胸板に頬を押しつけ、溢れそうになる雫を編みかけの竹カゴで隠した。
(琉麒が僕の運命の番でよかった。琉麒がそう思ってくれるなら、きっと僕は頑張れる……頑張ろう)
窓から漏れる光が夕暮れ色に染まる頃、白露はやっと琉麒から体を離した。しっかりと皇帝の顔を見て、はにかむように笑いかける。
「ありがとう、琉麒」
「ああ、白露……ふふっ」
琉麒は白露の頬を撫でて、肩を揺らして笑い続ける。なんだろうと触ってみて、竹ひごの跡がばっちりついているのに気づいた。
「わあ、ひどい顔になってそう」
「そんなことはない、かわいいよ」
かわいいなんて言っているけれど、琉麒は笑いのツボにでも入ってしまったのか、なかなか発作を収めてくれない。
「す、すまない白露。これはけして面白がっているわけではなくて、ふふふ……っ」
ああもう、湯気が出そうなほど恥ずかしい。琉麒は青玻璃の瞳を煌めかせて作りかけの竹かごを見下ろす。
「今から続きを編むのかな」
「ええと……」
どうしようか。琉麒は竹細工が欲しいと願ってくれたけれど、高貴な人に竹細工を渡すのは失礼な行為だと学んだばかりだ。
作成時に足で踏みつけて作る物なんて、皇帝様に相応しい贈り物だとはとても思えない。
「私に作ってくれるのだろう? ぜひ作っているところも見たい」
「やっぱり別の物にしない? 例えば、ええと、ええと……」
いったいなにをすれば琉麒に喜んでもらえるんだろう。裁縫は苦手だから刺繍は難しそうだし、料理はほとんど見たことすらない。白露が他の村人よりも得意なのは、簡単な計算と子守唄と、それから竹細工を作ることだけだ。
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