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第71話

 裏口側には誰もおらず静かで、細い路地が続いていた。店主は小声で白露に注意する。 「このままあっちの方向に行って、一つ目の角を右、三つ目の角を左、その後すぐに右へと曲がれ。そうすれば皇都の端まで辿り着く。すまんがそれ以上はどうすればいいかさっぱりわからん、誰か親切な商人にでも牛車に乗せてもらえ」  店主を見上げると、怖い顔をしながらも瞳には案じるような色が見え隠れしていた。なんていい人なんだろうと感激して、白露は熊店主に抱き着いた。 「ありがとう! きっといつかお礼をする!」 「いいから早く行け……って、この匂い……! まさかオメガか、おい! やっぱお前家に帰れ!」  店主の叫びを最後まで聞かずに路地に飛び出すと、表玄関の喧騒がざわりと大きくなる。 (今、皇帝様って聞こえたような?)  民衆の悲鳴のような叫びと共に、望んでやまない声まで聞こえた気がする……白露の足は路地の端でピタリと止まった。 (警吏が来てたってことは、あの騒ぎは葉家じゃなくて、琉麒の手配によるものなんだよね? まさか本当に店先まで来てる?)  それほどまでに白露に会いたいと……一緒にいたいと、望んでくれているのだろうか。白露の胸はツキンと痛んだ。 「……ちゃんと話をしなきゃ」 (琉麒に会って、別の番を見つけてもらえるように話さないと)  けれどそう思うだけで胸が痛くて、呼吸もままならないくらいに息がつっかえる。彼を目の前にして冷静に伝えられる気がしない。  だって白露の心はずっと叫んでいる。琉麒と一緒にいたい、番になりたい、大好きなんだと。  そういえば琉麒に好きだと伝えたことすらないと、今更ながらに思い至った。番になりたい、琉麒以外の人に噛まれたくないとは告げたけれど、直接気持ちを言葉にしたことはなかった。グッと手を握りこみ決意する。 (琉麒に好きだって伝えよう。大好きだから幸せになってほしいんだって、そう言えばきっとわかってくれるよね……)  そうやって伝えるのはとても辛いことだけれど、伝えなければ何度だって白露は追いかけられて、そのうち里まで迎えに来てしまうかもしれない。  琉麒に幸せになってもらうためには、たとえどんなに心が痛くて苦しくても、別れの言葉を告げなければいけない。  白露は俯かせていた視線をゆっくりと上げ、表玄関の方へと歩きだした。

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