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第6話 女神の試練と出逢い ②
「おはようございます、雅成様」
優しく微笑みながら森本は、現状を把握できていない雅成のそばまでやってきて、ベッドのヘリに座ると雅成のアッシュグレーの髪を掬い上げ耳にかける。
「実は雅成様に込み入ってご相談したいことがあります。これは雅成様にしかご相談できないことで、雅成様しか解決できないことがらなのです」
「僕にだけ……ですか?」
「はい」
いつもは冷静で何事にも動じない森本が、困惑しながら深刻な表情で、雅成に持ちかけてきた。
「どうか話だけでも聞いていただけますか? 私の力では、旦那様をお救いすることができないのです」
肩を落とし膝の上で両手に力を入れ握る森本は、とても小さく頼りなく見えた。
「僕でよければ、力になります」
強く握られた森本の手を、雅成は上から優しく包み込む。
「ありがとうございます……」
雅成の答えを聞き、森本は安堵の表情を浮かべた。
「ご相談したいことと言いますのは……」
森本は話し出した。
実は雅成には特殊な能力が授かっていていて雅成の本当の姿は、その能力で人々を助ける女神であるということ。
だが雅成はその能力が開花されておらず、嶺塚は自分が生きている間に、雅成が能力を取得できるか憂いでいて、それが原因で床に伏せってしまっている。とのことだった。
「旦那様の容態は?」
「それがあまりよくありません。医者の診断ではこのままでは、もってあと半年だと……」
「半年!?」
嶺塚は高齢だ。だが半月前、雅成が会ったときは健康そのものだった。
なのにどうして、そんな急に体調が悪くなるのかわからなかった。
森本の話では、自分が特殊な能力を取得できれば、嶺塚の体調は回復するかもしれないとのこと。
嶺塚は悪魔のような義父との生活から、救い出してくれた、雅成にとって命の恩人と言ってもいいほどの人物。
そんな人物が自分のせいで床に伏せっていると聞き、雅成は心が苦しくなった。
嶺塚のために、なんでもしたいと思った。
「あの、少しでもいいんです。旦那様のために僕にできることは、ありませんか? 旦那様が元気になられるためだったら僕、なんだってします」
その言葉を聞いた森本の表情は、ぱぁーっと晴れわたる。
「ほ、本当ですか!? 本当になんでもしてくださるんですか?」
「ええ、僕の全てを差し出してでも、旦那様を元気にしてみせます」
力強く雅成は言う。
「雅成様の全てをさしだしてでも助けてくださる。こんなに嬉しいことは、ありません! ありがとうございます! ありがとうございます……」
森本は雅成の手を握りながら、何度も頭を下げる。その目には涙が浮かんでいた。
(森本さんは、ここまで旦那様のことを思われていたなんて)
雅成の心が暖かくなる。
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