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第48話 すれ違い ⑥
「出会いは……衝撃的だったね。でも嫌いになんてならないよ。ルイはお義祖父様に言われてきてたんでしょ? それなら仕方ないよ」
「そうでしょうか……」
ルイはまだ顔を隠している。
「そうだよ。だってお義祖父様の命令は絶対。だれも歯向かうことなんてできない。僕の方こそ、急にステージ上であんなことをさせてしまって、ごめんね」
「いえ……そんな……悪いのは俺です……」
顔を隠したままのルイの声のトーンが下がる。
もしかしたら、ルイはなにも聞かされないままオークション会場に連れてこられ、壇上に上げられてしまったのかもしれない。
周りの大人たちに仕組まれたことなのに、ルイは自分が悪いと責任を感じている。
それは違うと雅成は思った。
「ルイ、僕を見て」
雅成は顔を隠すルイの手に、自分の掌を重ねた。
背丈は拓海と同じぐらい。
ステージ上では年齢を感じさせないほどの色気を放っていたのに、いざステージから降りるとルイはどこか幼さを感じされる。
「今、何歳?」
「18です」
まだルイは顔から手を離さない。
「18歳? 若〜い! 高校生?」
「大学一年です」
「大学生! 若い!」
「若いって言っても、俺と雅成さん3歳しか離れてないじゃないですか」
「そうだけど、その3歳差が大きいの」
「そういう、ものなんですか?」
「そうだよ。ほら見て、目尻に小皺ができてきてるでしょ?」
ルイの顔に雅成がぐっと自分の顔を近づけた。
「そう、ですか? 俺には見えませんけど……」
指の隙間から、ルイは雅成の目尻を見る。
「もっと近くで見たらわかるっ。ほら見て、ここ」
雅成が目尻を指さす。
その指の先をよくよく見ようと、ルイが顔を覆い被せていた両手を離し、顔を近づけたり、目を細めながら左右から見比べてみたりと、雅成の目尻をじっくり観察する。
「? 小皺なんて全然ないじゃないですか。艶々ですよ」
ルイが怪訝そうにしていると、
「捕まえた!」
雅成がルイにギュッとを抱きついた。
「な! なんですか!? 離してください」
「なんですかじゃないよ。ルイ、全然僕のこと見てくれないじゃない。もう僕から逃げないって約束してくれたら、許してあげる。どうする?」
「雅成さんは、それでいいんですか? 俺が雅成さんの視界に入ってもいいんですか? 話しかけてもいいんですか?」
雅成の答えをまつルイの瞳が、不安に揺れる。
「出会いはあんな形だったけど、ルイがいい子だってことはわかってる。だから僕はルイとたくさんいろんな話がしたい」
「ほんと、ですか?」
まだルイは雅成の言葉を信じられずにいるようだ。
(困ったな……)
腕時計で時間を確認すると、まだ診察まで時間がある。
「本当だよ。僕、少し時間があるから、コーヒー奢るよ」
雅成はルイの手を引き、研究棟内にあるカフェテラスに向かった。
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