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第49話 すれ違い ⑦
吹き抜けのカフェテラスを中心に、研究棟は建てられている。
一度にたくさんの人が憩えるように、ソファーや座りごこちのいい椅子が用意されていた。
自然光が差し込み、観葉植物が育てられテラスで休憩しながら研究員同士意見交換ができるよう、机や椅子の移動も自由だ。
有名飲食店が入り、その中には雅成のお気に入りカフェの名前もあった。
太陽の光が観葉植物にあたり木漏れ日が、ルイと雅成が座るソファーに降り注ぐ。
「この店のフルーツタルトと蜂蜜紅茶が美味しいんだよ。食べてみて」
雅成に連れてこられるがまま、カフェテラスに連れてこられ、ソファーに座らされると「ちょっと待ってて」と待たされ、今度はおすすめのスイーツセットを推しに推されている。
ルイは少し困った顔をしながらも、タルトを一口食べる。
「ん! おいしい!」
困っていた顔が綻んでいく。
「でしょ? 紅茶も飲んで」
雅成は身を乗り出して、ルイの反応を待つ。
「ん! 美味しい! 砂糖なしなのに、ほのかに甘い」
「でしょ? 次はタルト食べた後、すぐに紅茶を飲んで」
ルイはワクワクした表情でタルトと紅茶を口にする。
「柑橘系のフルーツ部分を食べた後に、ちょっと甘い紅茶がすごく合う」
大きな口を開けてパクパクと食べ始め、あっという間にタルトと紅茶は無くなる。
まだ物足りなさそうだったので、雅成は次におすすめのチーズケーキとロイヤルミルクティをご馳走した。
チーズケーキを頬張るルイに、雅成が話しかけると、少しずつ身の上話をしてくれた。
ルイは医師になるために医学部で勉強していること。
学校でしていた健康診断で、細胞異常が見つけられたのがきっかけで、嶺塚が運営している研究室にくるようになったこと。
闇オークションには「大切な人を守りたいから助けてほしい」と嶺塚直々に頼まれたこと。
雅成の蜜を飲んだ時、体内で何かが変わっていくのを感じ、検査すると細胞が活性化されていたこと。
雅成は重い病気を患っていて、助けられるのは自分の精だけだと知らされたこと。
最後に、雅成に強く惹かれても、雅成には最愛の人がいて、自分との行為を後悔しているのではないかと思っていることを話してくれた。
ルイも細胞異常が見られる。
そしてルイも雅成の蜜を体内に入れた時、何かが変わり細胞が活性された。
雅成とルイとの症状が合致しているところが多い。
(もしかしてルイも、僕と同じ病気? じゃあ、ルイも余命が近いの?)
雅成の病気は命が尽きる直前まで、健康な時と変わらず美しいままだ。
だから外からルイの病状がどれほど進んでいるのかわからない。
そもそも嶺塚が病気のことをルイに話しているかもわからない。
もしルイが何も知らない状態だったとしたら、話を切り出しただけで、ルイの不安を煽るだけ。
確認しようにも、どう切り出せばいいかわからない。
「雅成さんは、あの日のこと、後悔されていますか?」
「ううん、してないよ。それに仕掛けたのは拓海や僕で、ルイは被害者だ。僕たちのことに巻き込んでしまって、ごめんね」
好き好んでしているわけではないが、雅成と拓海はステージでのプレイに慣れている。
でもルイは違う。
普通の生活をしていた普通の大学生。
そんなルイをこちら側 の世界に引き摺り込んでしまったのは自分たちだ。
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