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第51話 すれ違い ⑨

 雅成は人生初、スマホにロックをかけた。  今までは拓海、嶺塚、森本との連絡手段しかなく、拓海に中身を見られて困ることはなかった。  だがそこにルイが加わることになり、事情が変わる。  夜中の2時。  ベッドの中の拓海はぐっすり眠っている。 (よし、今だ)  拓海を起こさないようにスマホを片手に、雅成がそっとベッドから抜け出し、寝室から一番遠い部屋に電気もつけずに入った。  スマホのロックを外し、誰かに電話をかける。  数回のコール音の後に 『もしもし』  男が出た。 「ルイ、今大丈夫?」 『もちろんです』 「次会うの、明後日って言ってたけど、拓海、今日の午後からお気祖父様と会う約束が入ったから、会う日今日の午後に変更できる?」 『もちろんです』 「本当に? よかった〜。研究棟のカフェテラスで待ち合わせして、そこからルイの部屋に移動でいい?」 『もちろんです』 「いつも急でごめんね。じゃあ、今日の午後。詳しい時間がわかったらメールするね」 『はい!』 「おやすみ、ルイ」 『おやすみなさい……雅成さん』  名残惜しそうにルイが電話を切る。 (ふぅ〜。無事に日にち変更完了)  スマホの画面が、『happy birthday』の帽子を被った拓海が雅成の頬にキスすをしている画面に変わる。  この写真を撮ったのは約一年前。  家で二人だけでした拓海の誕生会の写真。  この時は、まさか雅成が治療法のない病気にかかっていて、余命があと4ヶ月しかないなんて考えてもみなかった。  辛いこともたくさんあったけれど、拓海と一緒にいられるだけで、幸せだった。  拓海の誕生日は来月。  余命宣告を受けて2ヶ月が経ち、見た目には変わらずだが、雅成の体力は落ちていっていた。  水を飲んでも飲んでも喉の渇きがなくならず、夜中何度も目が覚める。  あれほど美味しかった拓海の料理も、日に日に味がわからなくなり、食欲もなくなってきていた。  研究室で細胞を見てもらうと、やはり衰えていっているとのこと。  雅成の余命はあと4か月。  だがもしかすると余命はもっと短いのかもしれないと、雅成は感じていた。  だから二人で祝える最後の拓海の誕生日、どうしても成功させたかった。  雅成は料理上手なルイに拓海の誕生日に出す料理を習っている。  甘いものが好きな拓海のために誕生日ケーキも作りたかった。  大したことはできないけれど、素敵なパーティーにはできないかもしれないけれど、拓海をどれだけ愛しているか伝わる誕生会にしたかった。 (拓海……)  スマホの画面に触れた時、背後でカチャリと部屋のドアノブが動いた音がした。  反射的に振り返ると、部屋のドアが少しだけ開いている。  頭が真っ白になり、体が固まった。   (まさか!? 見られた!?)  ハッと我に返ると、急いでドアを開け廊下を見たが誰もいない。  胸を撫で下ろし大きく深呼吸をしてから寝室に向かい、ベッドで眠る拓海の隣に滑り込む。  拓海は雅成にら背を向けるように寝ていている。  雅成はそっと拓海の背中に顔を押し当て抱きつく。   規則正しい寝息、体温が伝わってくる。  愛しい人の香を吸い込み、雅成も目を閉じた。

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