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第57話 真実 ④

 吐血の原因はやはり病気のせいだった。  もうどうすることもできないところまできていて、残されたのは対処療法だけとなった。  それでも入院し、病院で提供される栄養の計算された食事で、雅成は少しずつ元気になっていった。  時々雅成がわがままを言って、拓海に高カロリーの料理を作ってもらい二人でこっそり食べ、後で看護師に見つかり怒られたりもした。  退院の日。  荷造りを終わらせて、いざ帰ろうとなった時、森本が病室に飛び込んできた。 「拓海様! 会長が……旦那様がお倒れになりました!」 「え!?」  倒れるまで体調が悪くなっていたとは思っていなかった雅成は、飛び込んできた森本を凝視した。 「容態は?」  驚く雅成の隣で、拓海は驚いてはいなかった。 「意識がありません。至急本宅までお越しください」  森本は落ち着いた口調だったが、声色は強張り緊急度合いを示している。 「わかった」  拓海が答えると、森本はホッと息を吐き微笑む。 「だが今すぐは無理だ。一度雅成を家に送って、体調が安定しているのが確認できてから行く」  安堵の表情だった森本の顔から笑みが消える。 「……わかりました。ではマンションの下で車を停めて、お待ちしています……」  拓海が出した条件はぎりぎりまで譲歩したものだと、森本も感じ取っているようだ。 「拓海、僕は病院で待ってるから、すぐにお義祖父様のところに行ってあげて」  そう言い、雅成は先ほど詰めた荷物をベッドの上に置き、荷解きを始める。 「雅成を置いては行けない」  荷物を広げる雅成の手を、拓海が止めた。 「病院にいた方が何かあった時、すぐに対応してもらえるから、家にいるより安心だよ」  本当は家に帰りたかった。  でも今、嶺塚のところに行かないと、せっかく埋まってきていた二人の溝が深くなりそうだった。 「でも……」 「僕もお義祖父様の容態が心配なんだ。だから行ってきて。ね、お願い」  重ねられた手の上に、雅成がさらに手を重ねた。  肉親の危篤より自分を選んでくれた。  それだけで嬉しかった。  長い沈黙の後、 「わかった……」  拓海は小さく言った。 「様子がわかったら、すぐに帰ってくる。それまでは安静にしててくれ。森本さん、雅成のそばにいてやってくれませんか?」  拓海は自分が不在の間を、森本に託す。 「わかりました」  森本が強く頷くと、拓海は雅成を抱きしめ、 「いい子で待ってて」  優しく微笑み額にキスをした。 「わかった。気をつけてね」  雅成は背伸びをして、拓海の唇にキスをする。 「行ってくる」  もう一度ギュッと雅成を抱きしめ、体を離すと拓海の表情と纏う空気がピリッと一気に変わる。 「車の用意を」 「はい!」  森本が頭を下げ、廊下でまつ部下に指示を出し、拓海が部屋を後にする。  雅成が初めて見る、拓海の険しい表情だった。  拓海は雅成が知らない何かを知り、一人で背負っているのかもしれないと雅成は思った。

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