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第60話 真実⑦
「ルイくんには10歳の妹がいるのですが、二人とも旦那様以外が経営していた施設で虐待を受けていたのを、旦那様が見つけ保護されました。そしてその後、ルイに遺伝子異常があるとわかりました」
「ルイは……詳しい話を知っているんですか? ルイの体は大丈夫なんですか?」
歳の離れた妹がいる。
以前は施設にいたということは、頼れる人もいない。
不安がよぎる。
「知っています。余命も」
「余命!?」
森本から余命の話がでるということは、残りわずか。
「どれぐらいですか?」
「持ってあと一ヶ月です。今、ベッドから起き上がれているのも奇跡に近いです」
「……」
あと一ヶ月。言葉が出なかった。
「今、ルイは……」
「研究室にいます」
(まさか……)
よからぬ事が脳裏を掠める。
雅成は病室を飛びだし、研究棟に走る。
「雅成様!」
慌てる森本に捕まりそうになったが、なんとか逃げ切る。
少し走っただけで息が切れた。
息が苦しくて立ち止まりたい。
このまま走れば確実に、体力も良くなりかけていた体調も悪くなることはわかった。
でもそんなことどうでもよかった。
「ルイ!」
研究室の扉を勢いよく開けると、口腔内の細胞を採取しているルイと研究員の姿があった。
この前会った時より、痩せても見える。
「ルイ、どうしてここに……」
近づきふとルイのTシャツの襟首を見ると、赤黒いシミができている。
まじかで見ると、シミが血液だとわかった。
「これ……」
ルイは慌ててシミを隠す。
「ちょっと鼻血が出てしまって……」
そう言っている間に、何もしていないのにルイの鼻からツーっと鼻血が流れてきた。
「ルイ君!」
一緒にいた研究員が、ルイに白いタオルを渡す。
タオルはみるみる赤く染まり、出血の多さを表す。
「あれ、おかしいな……。いつもこんなことないんですよ」
ルイは笑って見せるが、目の下のクマがくっきり浮き上がりみるみる真っ青になり、虚な目になっていく。
「ルイ、しっかり! しっかりして!」
呼びかけることしかできない自分が、雅成は歯痒い。
「とりあえずソファーへ」
森本と研究員に支えられながら、ルイはソファーに座り背もたれにもたれる。
呼吸が落ち着いてきて、少し楽そうに見えた。
真っ赤に染まったタオルから、新しいタオルに変えてもらい、しばらくすると血が止まった。
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