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第61話 真実 ⑧
「なんだか、お見苦しいところを……すみません」
ルイが苦笑いする。
誤魔化そうと無理して笑うルイに怒りが湧いた。
と同時に、胸が苦しくなった。
「ごめんねルイ……」
血で汚れているルイを、雅成はぎゅっと抱きしめる。
「気付いてあげられなくて、ごめんね……。辛かったよね。怖かったよね。苦しかったよね……」
「……」
抱きしめられたルイは何も言わない。
だがルイを抱きしめている雅成には、ルイが震えているのが伝わってきた。
「ごめんね、ルイ……」
雅成はルイの背中を摩りながら、
「ちょっと二人だけにしていただけませんか?」
森本と研究員に頼んだ。
「わかりました。もしもの時のために私たちは廊下にいます。よろしいですか?」
「はい。ありがとうございます」
雅成がそう言うと、二人は部屋を出た。
部屋には雅成とルイだけ。
ゆっくりと体を離すと、やはりルイは泣いていた。
雅成はルイの隣に座る。
「ルイ、いつから知ってたの?」
「初めて雅成さんと拓海さんと会った後、病気のことも余命のことも全部教えてもらいました」
ルイは俯いたまま答えた。
ルイと初めて会ったのは二ヶ月前。
ということは、あの時、ルイは余命3ヶ月と告げられていたことになる。
「延命治療のことも聞いてた?」
コクリとルイは頷く。
「そう……」
雅成は立ち上がりルイの膝に跨る。
「な、何をしてるんですか!?」
ルイは雅成を膝の上から下ろそうとする。
「ルイ、僕を見て」
雅成はルイの頬を両手で掴み、自分の方を向かせるが、ルイは抵抗して首を横に振る。
「ルイ……」
無理矢理に、雅成はルイの唇にキスをした。
唇と前歯を舌先でくすぐると、ルイは雅成の舌を口内に招き入れる。
上顎をくすぐると、緊張で硬くなっていたルイの体から力が抜けていく。
雅成は唾液をルイの口内に流し込んだ。
もっと雅成の唾液を欲しがるように、ルイが舌を絡める。
「ん……ンン……」
雅成はルイが求めるだけ唾液を与えた。
長く深いキスが続き、ルイがゆっくりと雅成から体を離す。
キスをする前より、ルイの顔色は良くなっている。
(よかった……)
雅成はルイの額にキスをした。
「ごめんなさい……俺……俺……」
視線を落としルイが項垂れる。
「どうして謝るの? ルイは悪いことひとつもしてないよ」
ルイは大きく頭を振る。
「あともう少しなんです……。あともう少しで薬が完成しそうなんです。なのに俺……俺……もう間に合わないかもしれないんです……」
徐々にルイの声が小さくなっていく。
「雅成さんを助けられるのは僕しかいないのに……
。なのに何もできてないんです……」
「そんなことない! そんなことないよ。ルイは僕のためにたくさんしてくれている」
またルイは首を横に振る。
「俺がもっと頑張れば、薬は完成できるんです。そうなれば、雅成さんは元気になって拓海さんと幸せに暮らせるんです」
「どうしてそこまで……」
雅成が女神だからと言ってルイが徳をすることはない。
まして拓海と幸せになっても、ルイには何もないはず。
どうしてルイは自分の命を削ってまで薬を完成させようとしているのか、雅成にはわからない。
「この病気、遺伝するかもしれないんです……」
ポツリとルイが言った。
「俺の母はある日を境に急に体調が悪くなって、原因不明のまま息を引き取りました」
「……」
「俺には妹がいます。妹にはまだ症状は出ていませんが、遺伝なら妹もこの病気になる可能性はあります。だから俺は早く薬を完成させて、雅成さんも妹も助けたいんです……」
胸が苦しくなった。
そして自分のことしか考えていなかったことが、自分だけが不幸だと思っていたことが恥ずかしかった。
ルイが自分と同じ病気かもしれないと思った時、どうしてルイのことも考えてあげられなかったのか?
どうしてルイのために研究に参加しようと思わなかったのか?
ただ、拓海以外に受け入れたくないということばかりに気持ちがいき、周りが見えていなかった。
ルイにも家族がいて、守りたい人がいることを、どうして考えなかったのか?
自分が死ねば、ルイも助からないとどうして考えなかったのか……。
ルイは全てを知り、受け止め、前を向いた。
(なのに、僕は……)
雅成はルイのTシャツを脱がす。
「え?」
驚ろくルイを尻目に、雅成は自分も上半身裸になり、ルイにしっかりと抱きついた。
二人の体温が重なって、暖かくて安心する。
自分たちはまだ生きていると、実感が湧いた。
「あったかいね」
無言のままルイが頷く。
「死にたくないね」
またルイが頷く。
「ルイが僕や妹さんを助けたいように、僕もルイや妹さんを助けたい。だからこれからは一緒にがんばろう」
一瞬間が空いて、ルイが大きく頷いた。
「拓海への大好きとははちょっと違うけど、僕はルイのことも大好きだよ。ルイがいないこれからなんて絶対嫌だ。だからお願い。ルイ絶対に死なないで……」
絶対に死なない。
そんなこと誰もできないし、いつ訪れるかわからない死を防ぐことなんて、誰にもできない。
けれど、雅成はルイには絶対に死んでほしくなかった。
絶対に幸せな日々を、ずっとずっと続けて欲しかった。
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