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第62話 さようなら ①

「だからルイ、僕の蜜……飲んで……」  ルイは息を飲み、雅成が何を言ったのかわからないというようにじっと見つめる。 「僕のために、妹さんのために生きて。それで僕にもルイの精を頂戴。僕が生き延びるために」  コクリとルイは頷き、雅成の服を全て脱がしソファーに押し倒す。  ルイはゆっくりと雅成の股下に顔を埋め、楔を咥え口淫する。  雅成の鈴口からはすぐに蜜が溢れ出し、ルイは吸い上げる。  キュッと座れたり、蜜が滲み出すのを待てないというように、ルイは雅成の鈴口を舌先で割る。 「ふわぁ……あぁぁ……ンン……」  鈴口からルイの唾液が染み込んでくるように、楔が熱をもつ。  快楽だけを与える口淫は、すぐに雅成を高みに連れて行き、 「はっ、あっ……ああぁぁ……〜〜ッ」  ルイの口の中で蜜が弾けた。  全てを吸い尽くそうとするように、蜜が弾けた後も吸い続けられる。 「ルイ……上手……いい子……」  頭を撫でてやると、ルイは楔から顔を上げて雅成に甘えるようなキスをした。 「もう一回、蜜を飲んでも、いい?」  恥じらいながらルイが聞き、雅成が「いいよ」と答えるようにキスを返した時、 「拓海様! 今はダメです!」  外が騒がしくなり、バンッと壊れるかと思うほどの勢いで、ドアが開かれる。  ソファーの上で裸の雅成の上に上半身裸のルイが覆い被さっている姿を見た拓海の表情がみるみる強張り、赤くなっていく。  次の瞬間、拓海は雅成に覆い被さっているルイを引き離し頬を殴り、その勢いでルイの体は吹き飛ばされる。  床に体をぶち当てられ、のろりと起き上がったルイの口角からは血が滲む。 「ルイ!」  雅成がルイに駆け寄る。  他に出血はなく、とりあえずホッとした。 「雅成、どけ……」  怒りに満ちた声で全身震え上がる。  でも雅成は裸のまま両手を広げ、ルイの前に立ちはだかる。 「嫌だ、退かない」  拓海を睨み返す。  少しでも視線んを逸らせば、その隙にルイから引き剥がされそうだ。 「これはどういうことだ」  瞳の奥に燃えたぎるような怒りを持ったまま、拓海は雅成とルイを見下ろす。 「僕、もう拓海とは一緒にいられない」 「はぁ?」  拓海の憎しみがこもった声。  視線が鋭く、体に刺さる。  愛しい人からの蔑んだ目。  きちんと説明すれば、納得してくれるだろうか?  理解ある拓海なら、わかってもらえるだろうか?  説得できるだろうか?  一度は拓海に全て話そうと決めた。  でも今はあの時と少し違う。  状況が変わった。  自分一人の思いで決められなくなっている。  雅成が病気と余命を知った時、雅成には拓海がいた。  ルイが病気と余命を知った時、ルイには妹がいた。  二人には自分のことを愛し、傍にいてくれる人がいた。  でもルイの妹は?  ルイが死んでしまったら、妹はたった一人の兄を失ってしまう。  もし薬が完成しないまま、雅成もルイも死んでしまったら、ルイの妹は助かる術はない。  その上、病気が発症した時、妹の周りに自分のことを愛してくれる優しい兄はもういない。  ひとりぼっち。  生活は嶺塚が保証してくれる。  でも心の支えは?  病気を知らされた時、傍に寄り添ってくれる人は?  もし雅成がルイの妹の立場だったら、耐えられず病気と闘う気力も生きる気力も無くなって、ただ死を待っているだけの人間になってしまうと思った。  ルイの妹にはそんな思いはさせたくない。  絶対に。  だからこれが最後の決断。  もう迷わない。  雅成は覚悟を決めた。  拓海と話ができるのがこれが最後になっても、最愛を傷つけ別れようと。  本当のことを言って離れられなくなって、雅成ががいなくなった後も、ずっと雅成を想うことがないようにしようと。   酷い人間になって拓海の前から姿を消そうと。  今となれば余命宣告されたことは良かったのかもしれない。  誰もどこでいつ死を迎えるかわからない。  だが余命宣告をされたことで、自分はいつ死ぬかわかった。   だからそれまでに愛する人に「さよなら」をする準備ができたのかもしれない。  今までは病気になったことに絶望していたけれど、そんなに悪いことではなかっとかもしれない。  そう思うと、気持ちが軽くなった。  森本が傍にやってきて、自分が着ていた白いを雅成に被せる。  そして拓海の方を向き、何か言おうとしたのを雅成が首を振り止めた。

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