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頰の熱は範囲を広げ、響の耳も首も熱くする。何か言おうと開いた口は、何も言葉を吐き出せず、はくはくと空振った。
「……俺、一回見たものは、めちゃくちゃしっかり、……全部覚えてるから」
めちゃくちゃ、しっかり、全部。
壱弥の言葉に、たまらず俯いた。熱はもう全身に広がっている。
「そ、そう……」
「うん……ごめん」
「いや、別に……謝ることじゃ……」
「……謝らなくて、いいの……?」
え、と顔を上げると、すぐ近くに壱弥の顔があった。
「俺、……響がヒートじゃなくても、発情するんだよ」
ぐっと身体を寄せられ、壱弥とソファのアーム部分に挟まれたようになる。
「……俺のこと、怖くない?」
頼り無い声だった。壱弥は少し近づいただけで、響に触れようとはしない。ソファにある彼の拳はまた白くなっていて、かすかに震えていた。
「……怖い?壱弥が?」
響は静かに息を吐いて、笑う。壱弥の頰に両手を置いた。
「そんなの、思ったことないよ」
額を額にくっつけると、数センチ目の前、壱弥の唇がぎゅうと結ばれた。響は少しだけ顔を離して、その下唇を親指でなぞる。
ヒートを警戒しなくていいとか、番になりたいとか、それよりももっと、しっかり言葉にしないといけない大事なことがあった。
「――壱弥のことが好きだから。怖くない」
なぞった所に口付けて、もう一度「好きだよ」と告げた。
壱弥の目が大きく見開かれる。間近で見るその瞳は、奥の方にきらきらとした光の粒が煌めいていて、たまらなく綺麗。
「……俺も、……っ、俺も……響が、大好き……」
きらきらの目から、涙がこぼれる。次々流れて止まらない。壱弥を抱き締め、よしよしと頭を撫でた。愛しさで圧迫されているみたいに、胸が苦しい。
「壱弥が泣き止んだら、もう一回キスしようね」
言うと、壱弥が慌てて眉間に力を入れて、涙を止めようとするから、響は声をあげて笑った。可愛過ぎて、まだ涙で濡れる目尻にキスを落とす。
壱弥が響の頭を引き寄せ、「こっちがいい」と言うように、唇を唇で塞いだ。わずかに開いた隙間から、熱い舌が入り込む。身体を押され、響の背はソファに沈んだ。
ココアの甘さを残して、壱弥が離れる。響を見下ろす彼は、もう泣いていなかった。
浅い呼吸で肩を揺らし、何かを堪えるように、眉を寄せている。欲しくてたまらないお菓子を前に、腹を鳴らして、それでもぐうっと我慢している子供みたいだ。
「……響、もっと触りたい。……いい?」
空腹の限界を壱弥が告げる。響は腕を伸ばして、その頰を撫でた。
「……いいよ」
許可を得た瞬間、壱弥がまた響に覆い被さってくる。ゆったりとした響のパーカーは、簡単に壱弥の手を潜り込ませる。腰や脇腹あたりを撫でられ、息が詰まった。
壱弥はその手と唇で、骨の隆起や肌の感触を一つ一つ確かめるように、丹念に、丁寧に響の身体に触れた。優しくて、でも執拗な愛撫に身をよじる。
「い、ちや……もう、……触りすぎ」
「……だって、響の肌すべすべで、すごく気持ちい。ずっと触ってたい……」
低くうっとりと耳元で囁かれ、さらに呼吸が苦しくなった。壱弥が響の部屋着のパンツに手をかける。いい?と目で聞かれ、頷く代わりに腰を浮かせた。
ラフなスウェット生地のパンツは、下着と共に簡単に脱がされる。下半身を晒す格好にされ、信じられないくらい恥ずかしくなる。咄嗟にパーカーの裾を引っ張って隠そうとすると、壱弥に手を掴まれて阻止された。
「っ、……や、やだ」
「……響、ほんとに綺麗」
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