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 ちゅっと濡れた音を立て、太ももにキスが降ってくる。次は腰から下を丹念に触られる。  優しくて執拗な壱弥の手と唇は、次第に余裕のない動きになっていく。壱弥の荒い呼吸が皮膚を掠め、ゾクゾクと甘い痺れが背を這った。 「あっ……!」  壱弥がやっと、響の中心に触れた。間接的な刺激を身体中に受け、すでに緩く反応していたそれは、簡単に芯を持つ。 「ふ、あ……っ、んんっ」  声が抑えられない。なんとか喉奥で|止《とど》めようと、唇を強く噛んだ。 「だめだよ。……口、噛まないで。傷ついちゃうよ」 「んあ……っ、や、あ、んぅ……っ」  壱弥が口に指を入れて邪魔をする。閉じることが出来なくなった唇から、ぐずぐずに甘ったるい声が好き勝手に溢れた。壱弥の指が舌を撫でるように咥内で動き、腰が震える。 「って、待て、いち、……ん、待って、俺ばっか、いやだ」  あっけなく限界に到達しそうで、壱弥の手を掴んだ。 「……お前も、脱いで」  肩を押すと、壱弥が身体を起こした。急いた様子で、スウェットシャツを脱ぎ捨てる。厚い胸板と割れた腹筋に目を奪われていると、壱弥が再び響にのしかかってきた。 「ま、って。……壱弥の、……俺もする」  ヒート中じゃないんだし、やられっぱなしは情けない。壱弥のそれを、ジョガーパンツ越しに軽く握った。 「……っ、ひびき」  壱弥が短く熱い息を吐いた。少しの戸惑いと、それ以上の期待をにじませた目で響を見る。  期待に応えるべく、――実際応えられるかは別として、パンツと下着を引き下ろした。壱弥のそれは、なにもしていないのに、もうしっかり勃ち上がっている。  直接握って、ぎこちなく手を動かした。人のものに触るのはもちろん初めてだけれど、同じ男だし、こうしたらいいかなというのはなんとなく分かる。壱弥は息を弾ませ、気持ち良さそうに目を細めた。 「……壱弥、気持ちいい?」  「うん、すごく……自分でするのと、全然違う」  壱弥の素直な自己申告に、ちょっと意外な気持ちになって手元から顔を上げた。  成人男性なんだから、自慰くらいして当然なのだろうけど。子供のように純真で、花より団子な普段の壱弥からは、なんとなく想像しずらい。思わず「自分で?」と聞き返してしまい、視線を上げた壱弥と目が合った。 「うん……響のこと考えながら……自分で、何回もした」  熱を孕んだ目で見つめられ、低く掠れた声で「ごめん」と囁かれる。  子供のように純真で、花より団子。それとは程遠い、興奮に染まる大人の男がそこにいた。 「響、こっちきて」  腕を取られ、向かい合うように太ももの上に乗せられた。お互いのものが触れ合う恥ずかしい体勢に、響は慌てる。 「な、何、これ」 「一緒に……だめ?」  少し低い位置から、壱弥がお願いをするように響を見上げる。その上目遣いに負けて、いいよと呟くと、強く抱きしめられた。  張り詰めたものが、互いの腹の間で擦れ合う。壱弥が片手で二人分を握り、片手で響の尻をゆっくり前後に揺らす。さっき引いた快楽の波が、すごい勢いで襲ってくる。段々と揺らされる速度が速くなった。壱弥の動きにも、呼吸にも、切迫感が増す。 「い、ちや……っ、も、もう」 「ん、……お、れも……っ、響」  甘く低く名前を呼ばれ、肌が粟立った。ひ、と息を吸い込む。衝撃のような快感が弾けた。濡れた感触を腹に感じ、さらに身体がびくびくと引き攣る。  少し遅れて、壱弥も掠れた声で呻いて、二人の腹をもっと濡らした。  呼吸も鼓動も乱れたまま、深いキスを何度も繰り返す。ようやく唇を離すと、壱弥のそれは再び熱を持っていた。

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