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 響のカラーを外せるのは、この世で壱弥だけだ。壱弥にだけ、響は自分の首元をさらすことが出来る。  伸びてきた壱弥の手も震えていた。熱い指がカラーに触れ、首にひやりとした空気を感じる。  音もなく、カラーがベッドに沈んだ。  力強く、壱弥に抱きしめられる。互いのフェロモンの匂いが濃くなって、混じり合って、さらに濃くなる。 「響、響、……俺の響」 「っあ、はぁ……っ」  首筋を吸われ、がくがくと身体が震えた。 「か、んで……壱弥、噛んで」  うわ言のような呟きを、壱弥がしっかりと拾ってくれる。壱弥の乱れた呼吸と、舌の滑りを項に感じて、涙が滲んだ。 「響、大好き。愛してる」  囁き声と、歯の固い感触。ブツ、と皮膚を破る音と痛み。  それらを感じた瞬間、閃光が瞬いたように頭の中が真っ白になった。  絶頂を極めるよりも、もっと衝撃的で、もっと痛くて熱くて、幸せだった。  快感は増すばかりなのに、涙が止まらない。響の首筋から顔を上げた壱弥も、下半身を最大級に元気にしたまま、ボロボロと泣いている。  なんだかおかしくて、泣きながら二人で笑った。   『まさか僕達が一位だなんて、いまだに信じられません。この優勝は、チーム全員の力と、カラーに携わってくれた企業の方々、応援してくれた皆様のおかげです。心から感謝申し上げます』  テレビ画面には、インタビューに完璧な受け答えをする英司が映っていた。お昼のワイドショーで、昨日のカラーコンペの様子が放送されている。  響と同様、コンペを取る前提の仕事ばかりこなしていた男は、謙虚な若輩者を見事に演じていた。 「英司さんすげぇ……ドラマとか出られそう」  壱弥が感心したように言って、響にオレンジジュースの入ったグラスを渡してくれる。  ありがとうとそれを受け取り笑う。  昨夜、響のスマホには『ぶっちぎりの一位で優勝。予想通りだな。ボーナスよろしく』という英司からのメッセージが入っていた。二重人格のような友人は、間違いなく主演男優賞が取れるだろう。  響はベッドヘッドのクッションに寄りかかり、項に触れた。壱弥の噛み跡を指先に感じる。 「痛くない?」  壱弥もベッドに入ってきて、響が撫でていた場所にキスを落とした。 「大丈夫」  うなじ以外にも触れるだけのキスをそこら中にされ、くすぐったさに身を捩る。身体は微熱があるみたいに重いけれど、ヒートの症状は落ち着き始めていた。相性がいいと発情がおさまるのも早いようだ。――といっても、あれだけの回数を、当然のような気もするけれど。 「響、見て」  瞼のキスを最後に、じゃれつくのを止めた壱弥が四角い箱を取り出した。こっそりベッドに持って来ていたらしい。  オレンジ色のボックスに書かれたロゴは、壱弥のネックレスを買ったブランドの物だった。 「あ、ネックレス。取りに行ったの?」 「うん。昨日、響が打ち合わせしてる間に」  壱弥がブラウンのリボンを解き、蓋を開ける。  シルバーの鎖が日の光を受け煌めいた。  マンテルタイプの留め具部分には、ガーネットが埋め込まれている。忠誠と、変わらぬ愛を示す赤色が、燃えるように強く輝く。  壱弥が響の手を取り、恭しく口付けた。 「あの日、マフラーをつけてくれた時から、ずっと響が俺の全てだ」  響は満ち足りた気持ちで微笑む。  壱弥は昨日、響のカラーを外してくれた。  彼だけが、響の首を解放できる。  そして、マフラーをつけたあの日から、響だけが、彼の首に鎖を繋ぐことができる。 「響。つけて」  愛しい野生のアルファは、幸せそうにその首を差し出した。        野生のアルファは、首輪を欲しがる  END

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