1 / 11
第1話 プロローグ
公園の小さな掲示板に一枚の手描きのポスターが貼られていた。
それを見る度、また夏が来たのだなと思い知らされる。
「夏が来る……」
樹(イツキ)はランドセルを背負ったままポスターの前に数分立ち止まった。
そして、手元にある去年買ったばかりの運動着が、来月にはまた新たな物へと変わるのかと思うと、複雑な気持ちになるのだった。
「また学校変わるんだ……」
慣れたばかりの学校を、一年いただけですぐに変わる。それは、父の転勤が頻繁にあり、周期が毎年その時期だからだった。
転勤族。一言で説明するならばそうなるだろう。樹はいつだって転校する事を友人に知られるとそう話していた。
そして、もうここには戻って来ない。そう付け加えるのだった。
「はぁー……面倒臭い……」
引っ越す事。
心にもない色紙を渡される事。
破られると分かっている約束を交わす事。
その全てが面倒臭い。
「次はどこに行くんだろう……」
今の所よりも都会だと良いけどな。
そんな程度しか樹には楽しみがない。
〝次の学校ではどんな友達がいるだろう〟
そんな事を思ったって意味がない事を、樹はもう既に体感しているのだった。
ともだちにシェアしよう!