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第2話 金髪頭の永吉くん
高校2年になった樹は、8月の終わりに差し掛かり、また新たな学校へと転校した。
前の場所よりもど田舎で、辺りは田んぼや森しかない。自然に恵まれたそこは、今まで味わった事がないほどのどかな所だった。
その学校で、樹は不思議な男と出会う。
「なぁ、飯行かねー?」
「え……?」
突然の誘いに身体が固まる樹。だって、急に話しかけて来た男はピアスを開けた金髪の男だったからだ。
確か名前は……。
「山道(サンドウ)、オメー転校生虐めんなよ」
そうそう。山道永吉(サンドウ エイキチ)。樹が自己紹介をした後すぐに、寝癖を付けて後ろのドアからコソコソと入って来た男だ。
「虐めませーん。だって俺、良い子だから」
永吉はヘラヘラしながらそう言って、クラス担任に言い返す。
「良い子が、そぉんな頭してねーべ」
「これ、地毛なんでーす。おじいちゃまがカナダ人なんでーす」
「嘘こくな。オメーのじーちゃんワシの友達だべや」
「知ってるなら聞かないで下さーい」
「たくっ。問題児が」
「問題なんて起こしてませーん」
「その頭して言っても説得力ないべ」
永吉のヘラヘラした態度に、担任は呆れながら教室を出て行った。そんな二人のやり取りに、周りは大笑いだった。
(ちょっと待って。笑ってないでよ!)
樹は内心大慌てだ。
この金髪頭の男の誘いをどう交わせば良いのか分からない。
問題児と担任が言うのなら、何かしらの問題を起こしているのかもしれない。
例えば、虐めやカツアゲ。
「僕、おっ、お小遣いそこまで貰ってないです」
「小遣い? 俺、月三千円だ」
「三千円ッ!」
「なんだ? 貰いすぎか?」
「えっと、別に……」
それを聞いて、樹は笑いそうになる。高校生で月三千円なんて少ないんじゃないだろうか。
「家の手伝いしたら五百円貰えるから、まぁ、合計で四千円くらいかな」
「四千円……」
それでも少な過ぎる気がする。
やはり、こんなど田舎だと使い道がないのだろうか。
「ここじゃ駄菓子屋くらいしかないからなー。菓子が食いてー時はそこに行くしかないぞ。明日連れてってやるよ」
「え? あ、うっうん」
金髪頭の口から駄菓子屋なんて言葉が出るなんて。なんだか見た目とは違い、中身は子供っぽい気がする。
「ほら、学食行くぞ」
「あっ! それ僕のお弁当!」
永吉は机横に掛けていた樹の弁当をサッと取ると、ニタッと笑い樹の手を掴む。そして、手を繋いだまま学食へと連れて行かれたのだった。
これが、永吉との初めてのやり取り。
金髪頭の永吉との、初めての会話だった。
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