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第3話 愛がある男
永吉は外見とは裏腹で、とても良い奴だった。
二つしかないクラスの中心人物の永吉は、友人に呼ばれていつも二つの教室を行ったり来たりしてはガハハハッと盛大に笑い、時には「疲れたからここにいる」と言って、二つの教室の間に立って話している時もあった。
それはとても奇妙な光景で、樹が席に座って後ろの出入り口を見ると、永吉の身体が半分だけ出ているのだった。
あれを初めて見た時、樹はお腹を抱えて笑ってしまった。
だって、永吉はそこから身体は動かさず、顔だけを動かして器用に交互にいる友人と会話しているのだ。
まるで、聖徳太子のように。
「樹ー。勉強してんの?」
「まぁ、暇だから」
「じゃぁさ、暇ならドッジボールしねー?」
「ドッジボール? この歳で?」
ドッジボールなんて、小学生がする物だ。だから、永吉がボールを持ってそう言った事に樹はまた笑いそうになる。
「あ! お前ドッジボール馬鹿にしてるだろー。ドッジボールほど素晴らしい競技はねーんだぞ」
「馬鹿にはしてないよ。ただ、この歳でドッジボールなんてしようと思った事ないから」
「それが馬鹿にしてんだよ」
「ハハッ。ごめんごめん。そんなつもりはないよ」
「なら、やるぞ」
「で、でも僕スポーツは……」
「できないなら、俺の華麗な動きとテクニックを見てろよ。すげーぞ」
そう言って、永吉はまた樹の手を握る。
その手はいつも熱くて、樹の真っ白な肌よりも健康的な色をしていた。
「お前らー、樹も参加なー。俺のチームに入れるぞー」
その手に掴まれると、抵抗なんてできなくなる。したくなくなる。
そう思わせるような力が永吉にはあった。だから、モテる。
男女共に好かれている。
永吉は今まで見て来た人間の中で、誰よりも愛のある男だった。
金髪頭の永吉は頭だけではなく、心もキラキラと輝いた夏のように熱い男で、そんな永吉に、樹はいつも振り回される。
でも、一度も嫌だと思った事がない。
面倒臭がりの自分にとって、それはとても不思議な事だった。
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