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第11話 エピローグ

 永吉と別れて1年。あの祭りから永吉とは一切連絡を取らなかった。引越しの時間もずらし、別れも言わないまま永吉の前から消えた樹は、大学生になり一人暮らしを始めた。  永吉からは連絡は来ていた。でも、それを樹の方が見る事はしなかった。  見たら絶対に会いたくなる。  あの、祭りに置いた気持ちがまた花火のようにドーンッと咲いてしまう。それが怖かった。 「暑い……」  一人の生活も慣れてきた。なのに、夏になると心が落ち着かない。  会いたいが増す。増して、寂しくなる。 「永吉……っ」  樹は部屋の中、セミの鳴き声を聞き、涙を流す。夏が来た。夏が来てしまった。  会いたい。永吉に、今すぐ……。 「おーい。いんだろー、開けろー」 「え……?」  玄関の方から声が聞こえた。その声は、確かに永吉の物だった。 (幻聴?)  でも、それでも構わない。樹は玄関に駆け寄りチェーンもせずに勢いよく開ける。 「遅いぞ。たくっ、無視してんなよな」 「永吉……?」 「恋人をずっと放置とか酷いっつーの。次はねーからな」 「なんで……」  ここに。そう言おうとしたが涙が出て言えなかった。そんな樹を、永吉は1年前と同じ笑みで見詰め、優しく抱き締めてくれた。 「俺、お前を忘れるなんて絶対に無理だった。だから、次は俺の方から会いに来た」 「っ……」 「夏が来ても、ずっと一緒にいたいから。俺、地元に就職しないでこっちで就職したんだ。メール見てねーから知らないだろーけど」 「ごめっ……」  永吉の髪の毛は金髪ではなかった。真っ黒に染め、ピアスも付いていなかった。  本気で樹を追い掛けてくれたのだ。それが、その容姿で分かった。 「お前には話したい事がたくさんある」 「うん……」 「この1年間のこと。あと、これからの事」 「永吉……」 「もう、離れて行くなよ」  そう言って永吉が樹の身体を抱き締める。その逞しい胸板に、樹も身体を委ねた。  樹は部屋の中へと永吉を迎える。そして、二人はその日、離れていた1年分を埋めるかのように強く、激しく抱き合ったのだった。  夏が来た。  暑い暑い夏だ。 「なぁ、浴衣着て祭りに行かない?」  恋人は夏が来るといつもそう言う。その言葉に、樹は二つの浴衣を用意する。そして、想い出のあの場所へと手を繋ぎ、二人で向かう---。

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